寝台の上に向き合い、小さな機体を脚に乗せてめいっぱいに身を寄せ、触れては離し、離しては触れ、ついばむように幾度も口付けをする。熱の行き交う間に名を呼び合う声が、ひたひたと慾の水嵩を上げ、胸を揺らす。
 閨事に関してはまだまだ経験の浅さが目立つアラートだが、こうして触れ合うこと自体は好きなようで、しつこいほどのキスにも心地良さげな顔を見せていた。造りがひと回り以上異なるためインフェルノの口に喰われるようになりながら、唇を吸えば甘く呼気震わせ、舌を差し入れればおずおずと自分の舌で応えてくる。
「んっ、ぅ……インフェルノ……」
「イイ顔しちまって。キス、好きか?」
 問えば、ん、と素直に頷きが返った。内心浮かれ上がりながらも、そういえば寝ている間に自分からしたと言っていたな、と予想だにしなかった告白を思い出す。
(くっそ、なんでそこで起きなかったんだよ三日前の俺……お陰であり得ねぇ浮気なんぞ疑って、さんざっぱら馬鹿なことしちまったじゃねぇか)
 過去の自分に責任をなすり、また恩賜に預かる方法はないものかと考え、ふと思いつく。
「なぁ、アラート」
「ふ……?」
 苦しげにし始めた相手へ吸気の間を与えるついでに呼びかける。ぼんやりと応える様が愛らしく、上下する肩を撫でてやりながら言葉を続けた。
「アレやらねぇか? 『おかえりなさいのキス』ってやつ」
「……え?」
「お前がアレしてくれたら俺、任務のたびにすっげぇやる気が出ると思うんだよな」
 一日でも早く無事に帰るために、頑張ろうって気にもなるだろ、と畳み込むように言うと、やっと意味を咀嚼したと見え、覗き込む顔がぽふんと赤みを増す。今の今までそれ以上の状況にあったというのに、とおかしくも感じたが、閨は閨、普段は普段、という考え方なのだろう。
「なぁ、いいだろ。やってくれたら給料が上がるよりずっと嬉しいんだがなー」
「安っぽいやつだな……」
「金なんかで代えられねぇってこと。金のために他人たらしこんで利用しようって奴は、俺の万倍じゃ利かないぐらい馬鹿だね」
 それに、と手を伸べ、赤く染まった頬を指に包む。そのまま横へ滑らせた指で唇に触れると、もう一方の手に掴んだ肩がぴくりと跳ねた。
「あの時は勢いで喋くっちまったが、店で言ったことは嘘じゃないぜ。お前のコレ、すげぇ好き」
 もちろんここだけじゃないけどな、と笑いかけつつ、やわらかな感触を愉しむように表面をゆっくりとなぞる。アラートは抵抗も見せず、じっとおとなしく慰撫を受け入れていた。そうして、端まで行き着いた指が離れるまぎわ、
「……俺も」
 小さく声こぼし、自分の手をインフェルノの指にそっと添えてくる。
「俺も、これ……お前の手、好きだ。大きくて、頼もしくて、優しくて……傍にあると、すごく安心する」
 熱く揺れる呼気とともにささやきが落ち、隙間から覗いた舌がちろりと指の先端をかすめ、唱えた言葉を証すような愛しげな仕草で口付けられる。ぐっと飢えた喉音が鳴るのを聞きながら、インフェルノは手を引く動作を止め、逆にその口中へと指先をほんのわずかに滑り入らせた。
「んぅっ……」
「……舐めてくれ、アラート」
 当惑と高揚の入り混じった視線に応え、低く言う。
「こいつで、お前のを慣らすから。濡らしてくれ」
 背の震えがはっきりと伝わったが、指はそのまま戻さず、揺れる青の灯をじっと見つめた。おそらく同じほどにまばゆく光っているのだろう瞳からアラートも逃げようとはせずに、胸部に置いていた片方の手をそろそろと持ち上げ、左右からインフェルノの指を支えて、ゆっくりと招くように咥えた。
「ん……ふ、ぅ……」
 ためらいがちに始まった動作は次第に自然な口付けになり、やがて口と舌を使った積極的な愛撫へと変わる。あふれる咥内オイルを舌で指の腹へ塗り付け、ちゅうと音立てて吸い上げる仕草は、まだ実際には教え込んだことのない、閨房における別の行為を容易に連想させて、身の奥の欲を急速に膨れ上がらせる。
「んぅ、ちゅ……ふぁ」
 普段は凛として号令を紡ぐ唇が、自分のものよりずっと太く大きな指へ懸命に奉仕する様はひどく背徳的で、また大いに煽情的な光景でもあり、いつまでも見飽きないように思えたものの、目的の最後のものではない。自らにも言い聞かせつつ、制止をかけてやる。
「いいぜアラート。もう充分」
「あっ……」
 引き抜いた指を名残惜しげに追う動作に笑い、逆の手で頬を撫ぜると、すぐ表情に安寧が浮かんだ。この手が確かに彼に頼られ、何かを与えられているのだと思えば、ただ生まれ持っただけの機体も何より誇らしい。
 そのまま顔を引き寄せ、喜色の弧を描く口をまたついばみながら、「準備」の済んだ手をそろりと下へ降ろし、下腹のパーツへ当てる。少々急いだ行為だったが、じっくりと体を開いてやる余裕は時間の意味でも心の意味でもなかった。
「いいか?」
「……うん」
 念のため投じた確認への答えは少し間が空いたが、純粋な恥じらいから表れたもののようであった。触れ合う部位から伝わる熱は高く、惚けた表情に嫌悪や我慢を思わせる様子は見えない。あるのは羞恥と一対になった期待と、絶えぬ熱情の色だ。
 錠の外れるかすかな金音を聞き、奥を秘す門を開く。孔の入り口に指添えると、樹脂壁が既に湿りを帯びているのを感じた。濡れてる、と顔横でささやく。
「しゃぶってもらう必要もなかったか」
「っばか……、あっ」
 表面に指先を滑らせれば、保護液をにじませる壁がひくりと収縮し、濡れた指を奥へ誘い込むように動く。抗わずその求めに応じて、中を割り開いた。
「ひゃ……あ、ぁっ……」
 奥へ進めるごとに腕の中の機体が跳ね、甘く声を漏らす。一度抜き戻して指を増やしても、痛みを感じている気配はなかった。狭い内部を傷付けぬよう慎重に、しかし適度な性急さは失わず、中を暴いていく。
「や、ぁんっ、ぁ……、インフェルノっ……、やぁ」
「へへ……指だけですげぇな。かわいい」
「ひぁ、あぁっ、んっ……!」
 生来刺激に過敏な機体を持つためか、アラートは性感も比較的得やすいたちであるらしい。日頃の態度とは裏腹の乱れようを見るのがたまらず、真っ赤になって恥じ入ってみせるのが可愛くもあり、ついことさら言い教えるような揶揄をしてしまうのだが、今日はそれに反駁もできないほどの様子でいる。やだ、やだ、と幼げな泣き言が声に混ざり始めたので、無理に責め立てて拗ねさせるのは避け、愛撫の手を一度止めた。
「もう……平気だ、から……」
 絶えだえの排気の中から言われ、わかったと応ずる。いまだこれを純粋に慣らすための行為と考えていそうなところが妙にそれらしい。いずれは認識を一歩進めたいものだ、などと考えつつ、抱えた身体を後ろへ倒そうとすると、
「あっ……インフェルノ、待ってくれ。……その、ええと……」
 腕へすがってきた手に動きを止められ、膝上に納まった機体を見下ろせば、口の中で何やらもごもごと呟き始める。頬を染めて指すり合わせるあどけない仕草はやはり愛らしかったが、正直なところ、恋人の媚態を目の前にしてこちらも充分以上に昂ぶっていたので、ここでお預けを喰わされるのはつらいものがあった。
「アラート、待てねぇ……」
「えっ、あ、違っ、わ、わかってる」
 止めた身体をもう一度前へ進め、ほとんどのしかかる体勢になった状態で、アラートが胸の下から訴えかけてくる。
「インフェルノ、ちゃんとするから、……逆に、してほしい……」
「逆?」
「お前が、下になってほしい。俺が、の……乗る、から」
 一瞬何を聞いたかわからず、アラートが不安と羞恥ですっかり身を縮めてしまうほどの間を置いてから、ようやく次の、上品とも賢明とも言いがたい言葉が出た。
「え? お前が上に? 乗って? シてくれんの? 要するに騎乗位?」
「し、知らない……名前まで聞いてない……」
 真っ赤な顔で返され、さては、と推測が立つ。一体どんな話題でそこへ行き着いたのかは不明だが、例のワックスの流れで吹き込まれた情報ではなかろうか。受け身になるな、積極的に行け、などと入れ知恵されたに違いない。
「いつも俺ばっかり、お前にしてもらってるから。俺もって……」
「別に全然不満とかねぇけどな。俺がしてやりたいからやってんだし」
「……じゃあ」
「してくれんのが嫌だとも言ってないぜ?」
「わっ」
 早合点される前に身を起こし、下へ組み敷いていた機体を腰掴んで抱え上げて、腹の上に乗せる。
「どうぞ、センセイ」
 下からにっと笑いを向けてやれば、負けず嫌いがもたげて少し羞恥の念もやわらいだのだろう。むうと唇尖らせ、脚の付け根のあたりまで自ら位置を下げていく。意を決したように頷き、まさに気を入れて、といった少々場違いの風情で伸べた手が前のハッチを開くまでは勢いが続いていた。が――、案の定と言うべきか、現れたものを眼前にした途端、ぎしりと身体がこわばり、入れた気合いも目に見えてしおれてしまった。
「あう……」
「だから待てねぇって言ったろ」
「う……問題ない……」
 強がってみせるが、規格の違いとは大きなものだ。いつもはインフェルノの手で乱されるまま、ほとんど前後のわからないような状態で事に至っているアラートなので、それと自覚した直視は初めてに近いのかもしれない。反り立ったコネクタをそっと見やって、次にゆっくりと自分の腹を見下ろし、また固まる。思考が如実に伝わる仕草がおかしかった。
「無理そうなら――」
「や、やる」
 諭しかけた声がさえぎられ、緩慢な動作で腰が前へいざる。また妙なところで意固地を発揮するものだ、と呆れ笑いしながら、一方で激しく沸き立つ劣情を感じるのも間違いなかった。寝の姿勢から仰いでも小ぢんまりとして見える身体が、努張した欲を自ら受け入れるため、深い羞恥に耐えながらそろそろと身を開いている。これを眼福の画と言わずしてなんと言おう。
 インフェルノの腰の上で膝立ちになったアラートは、凝視するとまた弱気を得ると思ってか、またいだ接続器を探るように、おずおずと手を向けてきた。指先が裏をかすめ、屹立が跳ねる。
「んっ……」
「あ」
 咄嗟に離れかかるのを、こちらから伸べた手で捕まえる。びくりと揺れる機体へ笑いかけた。
「大丈夫だ」
 続けてくれと促し、一度前へ手を引いて四つ這いに近い姿勢にさせ、自分で支えたコネクタの上へやんわりと導いてやる。小さく頷きを示し、インフェルノの腹部にすがるようにしながら、アラートは緩慢な動作で腰を下へと降ろし始めた。あらわになった受容器の口に熱の先端が触れ、吸い付くような水音を立てる。
「ん、んぅっ……んっ」
 噛みしめるように結んだ唇から漏れる声とともに、ず、ず、とほんのわずかずつ中がインフェルノを受け入れ、熱がさらなる熱の中に呑まれていく。侵入へ充分に備えていた内部は圧迫感以上の痛苦を得ている様子もなく、しっとりと濡れてコネクタを奥へ誘い、少しの身じろぎに敏感に応えて切なげに蠕動した。
「はぁ、あ、うう」
「アラート、大丈夫か……?」
「んっ……へい、きだ……あぁっ、あっ……ん、んぁ……もう……すこ、し」
 切れぎれに答えながら、さらに下へと身を沈めていき、最後は脚が耐え切れず自重に引き落とされるようにして、インフェルノの腹に完全に腰を落とした。
「ひゃうっ……! はっ、あ、ぁ……」
「入った、な……」
「ん……」
 ぺたりと座り込んだ脚を労るように撫ぜる。アラートはまたかすかに頷き、吸気をととのえる間を置いた。ややあって肩の上下も落ち着き、熱宿るまなざしを行き交わす甘やかな一瞬を経て、いざ、と次へ進む空気が流れて――そのまま、沈黙が過ぎた。
 やがて、消え入るような音で名が呼ばれる。
「……インフェルノ」
「おう」
「……インフェルノぉ……」
「うん、動けないんだろ」
「……うぅー……」
 上にまたがって自ら受け入れるだけで、精魂尽き果ててしまったらしい。予想はできていた、むしろここまですらよくよくたどり着けたものと思っていたので、揶揄の気も起こさずなだめてやる。意地も同時に尽きたようで、ちらちらと向けられる視線は、いとけなくも悩ましげな懇願の色を含んでいた。
 無論、ここで期待に応えてやらねば男ではない。
「よし、あとは頼りになるインフェルノさんに任せとけ」
「……別に、そこは頼りにしてない……。……え、あっ、やぁっ」
 律儀に返す言葉も、下からぐいと腰突き上げればすぐに嬌声へと変じ、次の予感にまたじわりと保護液があふれ流れてくる。へたり込んでいた腰を両手で掴んで持ち上げ、接続の解けかかるところまで浮かせると、一度奥へ迎えた熱を慕うように、内壁がコネクタの先端をきゅうと絞った。
「インフェルノ、待っ……、や、ああぁっ……!」
 抱えた身体を今度は一息に引きずり下ろし、自らも同時に昂ぶりを奥へと突き込む。悲鳴に似たあえぎとともに、機体が腹の上で大きく後ろへのけぞった。ぐちゅぐちゅと淫猥な音鳴らす獰猛なまでの抽送を、二度、三度、その後も切れ目なく、続ける。
「ひっ、あぁっ……! やだ、やぁっ」
「くっ……すげ、イイ……」
「あんっ、んんーっ」
 過ぎた快感にアラートが身をよじらせるが、力が抜けるほどに剛直は奥へと届き、深い結合がさらなる愉悦を生む。快楽を伝える信号が絶え間なく二機の間を行き交い、いつの瞬間にか、爆ぜたアラートのコネクタからオイルが飛び、その胸をしたたかに濡らしていた。軍章と誇りの盾を刻む赤が、油液の下に艶めかしく輝く。同じく水に濡れそぼった小さな唇はもはや閉じきらず、ひっきりなしに甘くあえかな声を漏らし、雄の情慾を煽り立てた。上体が遠いためそれをついばみ、上から喰い付いてしまえないことを、至極残念に思う。
「インフェルノっ……、あっ……、奥、ぅ」
「ああ……すげぇ深く、喰われちまってるぜ?」
「やっ……」
 含羞に震えながらも押し込み切れぬ愉楽に蕩けた顔と、名を呼ぶ声、見交わす瞳にあふれる熱情が、それを受け取る側の心をも激しい喜悦で揺さぶり立てるようだった。
「ん……やっぱお前、美人なんかも……」
「なに、言っ……ひぁっ」
「ま、関係ないけど、なっ」
「あぁ、あっ……!」
 他人からの評価がどうであろうが、自分の心は変わらない。そしてどんな好評を得ていようが、ほかの誰かに渡してやる気はさらさらない。
「……好きだ、アラート」
「っ……、う、ん。俺、もっ……好き……だいすき」
 慕情を告げ合い、熱遂げようと腰を一度持ち上げ、引きかけた間、
「……インフェルノ、キスしたい……」
 ほつり、ひそやかな声が落ちる。状況上は少々難儀な注文だったが、否やのあろうはずがなかった。
「俺も」
 即座に答え、下肢を繋げたまま慎重に身を起こす。腰から外した腕で背を抱き込み、刺激に耐える様もあだやかな顔に指を添えて上向かせ、静かに口付けた。初めは浅く触れ合い、次第に深く貪って、再開させた律動とともに上下から優しく身を犯す。
「ふぅ、んん、んっ……ぁ……」
「一緒にイこうぜ……アラート」
「あ、あんっ、や……あああぁっ……」
「く、ぅっ……」
 びくびくと跳ね打つ身体を抱きしめ、深く欲呑ませた肚の奥へ精を放つ。力抜けてくたりと寄りかかってくる機体の重さが心地いい。
 しばし抱き合い、ともに駆動制御が落ち着いた頃を見計らって、そっと胸から起こさせた頬へ、今度は本当に触れるだけの口付けを贈る。ちゅ、と軽く音立てて離れれば、幸福げにほほ笑みが返され、思わず見惚れた。
「あーそうだな、美人よりカワイイ系か……」
「また言ってる」
 くすくすと笑われて、いや、と意見する。
「俺は決めた。お前がンな風に思われてるってのがわかったからにはもう油断しねぇ。お前ものこのこ妙な野郎に着いてったり、変な宴会に出たりすんなよ?」
「言われなくても、もうああいう店での仕事はしないよ」
 俺が担当しても非効率だ、と今ひとつ話が通じていないようなことを言うので、また改めて忠告しようと胸に誓った。成長できた、と自ら語る程度の自負はあるようだが、長年の生き方考え方のために、そういった方面へ気を回す習慣がそもそも欠けているらしい。
 それに、と考える。
 インフェルノ、そしてアラート自身は、彼が何かひとつのきっかけのみを所以に変貌したわけではなく、長い長い時間をかけて、一歩ずつゆるやかに長じてきたことを知っている。だから、初めと終わりだけを見て語る他者に比べて、その変化が驚くほど大きなものであったことに、少し気付くのが遅れたのかもしれない。
(だいたいあいつら調子がいいんだよ。今さら美人だのなんだの言い始めやがって、こちとら何万年もこいつが可愛いだなんざ承知だっつうの)
 自分こそ疑念が晴れた途端に調子がいいのは自覚しつつ、偽らざる心境ではあり、今後についてしつこく思案する。アラートはアラートで仕事の話を続けていた。
「だがやっぱり、ひとところに居続けてほかへ目を向けないのは良くないんだろうな。思考が凝り固まってしまうというか。人員配備について指令班へ頼んでおいて、もう少し現場へ出る頻度を増やしてもらってもいいかもしれない。現状を認識していれば教導の説得力も増すし……」
「んじゃ、たまには一緒に出ようぜ。保安部にアラートとインフェルノあり、ってとこを駆け出し連中にも見せてやらねぇと」
「……そうだな。それもいいかもな」
 頷き合い、またどちらからともなく顔を寄せ、笑みの形の唇を重ねる。
 凝り固まる、とは言い得て妙だ。自分たちはきっと、幾万の時を肩並べて歩んできた存在の色鮮やかさに惹かれ、その隣に馴染むがあまり、少し互いばかりを見つめ過ぎていたのだろう。彼のみではなく、その周りを取り巻くものが変じていること、変じていくことに思い至らず、これと決めつけて空回りをしていた。傍らを離れることに不安を抱いた。
 だが、立つ場が少し離れても、心はこんなにも近くにある。幾多の辛苦を超えて固く結んだ絆は、今さら少しのもつれで切れてしまうようなものではない。
「んっ……こら、明日は仕事だぞ……」
「遠征中のぶんとここ四日のぶんだぜ。まだまだ足りねぇよ」
 腰へ脚へと意図持って触れる指を咎められたが、けろりと返して行為を続ける。強く吹かれたがために燃え盛った火は、そのための職に就く者であっても、容易に鎮められそうにはなかった。
「なぁ、アラート」
「あ……」
 敏感な知覚器に唇寄せて低くささやけば、薄く開いた口の間から熱こもる呼気が漏れ、瞳が胡乱に揺れる。ああこれは押し切れるな、とわかってしまうのは、長年の絆の仇とも言えるのだろうか。
(いやいや、これがシアワセってやつだろ)
 ひとり頷き、次の叱責が紡がれる前にと、濡れて艶めく唇をもう一度自分の口の下にふさいだ。


      ○


 大団円の夜が明け、翌日。
「あ、隊長おはようござ……どうしたんですかそれ」
「名誉の勲章」
「『調子に乗ってやり過ぎましたで章』ですか」
 横顔眺めて指摘をくれる部下へ、はっきり言いやがって、と笑いを返す。
 昼過ぎ、友人から宴会の支払いを二人分おごる、とメッセージが届き、
『お前の噂の相手、確かに可愛かったな。ちょっとおとなしくて好みには外れるけど、結構いいと思ってたわ。せいぜい大事に捕まえておけよ』
 と、そんな忠告を受けたので、言われるまでもないの言葉のあと、大事に捕まえて離さない時間を少々見誤った結果、本日大遅刻の可愛い(が実はそれほどおとなしくもない)恋人に頂戴した情熱色の手型の勲章を、大いに自慢して知らせてやることにした。


fin.

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