うちの日向知りませんか?



「それで元通り直すのが大変でさー」
「火神ならやっちゃいそうだなぁ」
「……」
「『元気なのはいいけど怪我が心配』? もー、優しいなぁ水戸部は。日向なんてその場で鉄拳制裁だったのに。……あ、噂をすれば」
 修練を終えて湯殿で汗を流し、夕餉の準備を待つ和やかな空き時間。先日起きたという小さな騒動について語りながら、水戸部、小金井、土田の三人が外廊下を歩いていると、ちょうど名前ののぼった後輩分が前方に佇んでいるのに行き会った。
「火神ー」
「うおっ」
 初めに気付いた小金井が背後から声をかけると、びくりと長身が跳ねる。影の薄い相棒への反応が癖になっているのではなかろうか、と思うような驚き方に、三人笑いをそろえた。
「あ……、ども」
「こんなとこに突っ立って何してんの?」
「いやあの」
 あれ、と指差す先を見やると、中庭を挟んで反対側の部屋に、我らが主神ふたりの姿が見えた。隅の文机に向かって手紙を記しているらしい日向と、その反対側の壁に背を寄りかけて座り、書簡に目を通している、ような格好を装って日向の背を眺めている木吉。

「なぁ、日向ー」
 ぱたん。
「腹減ったなぁ」
 ぱたん。
「まだ終わらなさそうか?」
 ぱたん。
「もし大変なら手伝うぞ」
 ぱたん。
「隣の里もそろそろ落ち着くといいんだがなあ」
 ぱたん。

 のんびりとした木吉の声と、その合間に猫の尾先が畳をたたく軽い音。特段注目すべきところもない、いつもの風景だ。
 が、火神には何やら気にかかるものがあるらしく、二人のほうを向いたまま難しげな顔をしている。そうして、
「……なんか、日向さん冷たくねえか、ですか?」
 ぽつりと言った。
 顔を見合わせ、そうかな、と土田が代表して声を返す。
「いつも通りだと思うけど」
 小金井とともにうんうんと頷くが、火神は表情を緩めなかった。
「いや、だから……。いつもが、冷たいんじゃねぇかなって」
 あんなに待ってたのに、と小さく落ちた声でようやく察しがつき、もう一度、今度は笑みの浮かぶ顔を三人見合わせた。

 オロチの毒牙の呪いを打ち破り、十五年に及ぶ眠りから誠凛の主神、大樹の神・木吉が目覚めて半月。森は祝福に湧き、宴のにぎわいの中で喜びを分け合ったが、近隣の国には不穏な戦の気配が立ち込めたままで、いつまでも気を抜いていることはできなかった。土地の統治者としての役をおのおのこなし始めた仲間たちの先頭にはもちろん、大神である木吉と、誰よりその帰りを信じ、待ち続けた、もう一人の主神、日向の姿があった。
 一刻も早く郷の平穏を取り戻そうと努める中、再会の興奮はすぐに冷まさざるを得ず、それは主神の二人も同様だった。たとえ彼らが、数十年寄り添った想い人同士であっても――というわけなのだが、このまっすぐな気性の青年には、どうにも今の状況が飲み込みがたいらしい。状況、主には、くだんの主神の片割れの態度が。
「せっかく十五年ぶりなんだから、ああやって無視とかしねぇでもっと優しくしてやりゃいいのに、とか……思うんすけど」
 怒っていると言うよりは困惑しているような、寂しげとすら言えるような声音で呟く。ああ本当に良い子に育ったなぁ、と七曜の末子をほほ笑ましい気持ちで見つめた。
 まあ、わからないではない。長年あのやり取りを横で眺めてきた自分たちでさえもどかしく感じることがあるのだから、二人そろっているのを見るのがそれこそまだ半月という短い時間では、なかなか理解も難しいに違いない。「仲間」として、「家族」として、森の過去とこれからに心を寄せていた火神にすれば、もう少し仲良くしてくれ、という思いなのだろう。まるきり両親を心配する子どもの図で、やはりほほ笑ましい。
「大丈夫大丈夫。あれ、日向は別に冷たくしてるわけじゃないから」
「ていうか、火神わかんないのかー。虎って違うんかな?」
「……何が?」
 火神が首を傾げた小金井の言葉に、こちらはなるほどそうかと頷いた。心の機微が捉えられないことに加えて、ここ一年のうちに自分の出自を知った若者は、飛びぬけて鋭い勘や身ごなしとは裏腹に、獣の作法や習慣といったものにはまだ疎いのだ。
「まあ、日向のあの感じって慣れないとわかりづらいもんな。俺たちも会ったばっかの頃はそんなだったかも」
「会った頃、っすか」
 そうそう、と土田が頷き、
「まず日向と伊月の二人が先に木吉と会って、森に暮らし始めてて。俺たちが会ったのはその次の年だったんだ」
「水戸部は『急に主神と知り合いになって緊張した』ってさ。俺も緊張って言うかいろいろ驚いたなー」
「へえ……」
 興味深げに相槌が打たれる。そういえば、木吉のことを秘していた日向を慮って、あまり自分たちの昔の話はしてこなかったな、と気付いた。
「森に来てすぐは二人のことも良くわかんなくてさ」
 と、そこまで言って、小金井は何かを思い出したようにぷっと笑いを噴き出した。
「でもひと月もしないうちに、アレで一気に、崩れた? てのかな」
「アレ……ああ、アレか」
「そう。あ、やっぱ水戸部も憶えてるよな、アレ。『日向失踪事件』!」
 ぴっと指立てて口にされた言葉に、三人の笑いが重なる。ひとり首をひねる火神が何かを言いかけたところで、
「――興味深い題ですね」
 突如、静かな声が場に鳴り落ちた。
 再び肩をびくつかせて声上げた火神の背後に、平然とした顔で相棒の黒子が立っている。真打登場、といった風情だ。
「だから、いきなり出てくんなって!」
「いきなりじゃありません。小金井さんが火神くんに声をかけた時、もう後ろにいました」
「じゃあ逆にもっと早く入ってくりゃいいじゃねぇか……」
 そのつもりで話しかけましたよ誰も気付きませんでしたけど、と飄々と不平を受け流しつつ、小金井に向き直る。
「で、それはどんな事件だったんですか?」
「お、聞きたい?」
「後学のためにぜひ」
「あ、俺も……聞きてぇ、です」
 言って身を乗り出すようにしてくる。先ごろ仲間に加えた若者たちにとって、これまでの「だんまり」の期間はなかなか鬱積がたまる日々であったらしい。自分たちにしても隠さず語り聞かせることができるのは嬉しく、じゃあ夕飯に呼ばれるまで、と空き室に場所を移して昔語りに興じることとなった。


      ◇


 それは奇しくも、自分たちが森に暮らし始めて、同じくちょうど半月ほどが経ったある日のことだった。
 鳥が朝の歌をさえずる中、身に馴染んできた新しい宿舎の居間に、ひとりふたりと仲間が集まり始める。六人で膳を囲む賑やかな食事はもう日常のことになっていたが、その日は、集う顔ぶれの順序がいつもと少し違っていた。
 森でのおのおのの役割が次第に決まり、そのほとんど初めから、小使いの木霊たちのいない朝の食事の支度は水戸部に任されている。一人に頼りきりでは申し訳ないからと、手伝いをほかの五人で順番に回すことになり、必然的に、一番に台所と隣の居間に顔を出すのは水戸部とその手伝いの誰かであることが多い。今日は伊月が当番で、二人で準備を進めているところに次にやって来たのは、小金井だった。
「はよー……」
 まだ眠たげに発せられた朝の挨拶は、妙に鼻にかかった声だった。どうかしたのかと訊ねると、
「ゆうべさー、村の爺ちゃんにもらったいい夢が見れるっていうお香焚いて寝たら、すっげー匂いで」
 鼻が馬鹿になってんだよね、と言う。そういえば隣でも妙な香りがしていたと頷くとごめんと謝られたので、慌てて首を振った。
「鼻の利きが違いすぎて、人間のお香そのまま焚いてもあんまり良くないんじゃないか。俺はそうでもないけど」
「あー、伊月は眼のほうが凄いもんな」
「お前の採ってくる食料はどれも匂いがきつい! って良く日向に文句つけられたな。納豆好きが何言ってんだか」
「そういうのうるさそー、日向」
 続く二人の話を聞きながら、ふと、その噂の人物がやってこないのを不思議に思った。早朝の弓の修練を日々の習いとしている日向は、遅くとも三番目、日によっては一番に来ていることもあった。気になって戸口のほうを見ていると、土田が顔を覗かせ、おはようと手を上げる。これはいよいよ遅い様子だ。
「水戸部どったの? ……日向? そういやまだ来てないな」
「珍しいな。来る途中では見なかったけど」
「修練場で木吉とまた馬鹿な口論でも始めたか? はっ、口論をうろんな目で眺める……!」
「あ、凄く日向の有難さを感じる瞬間だねこれ」
 言い交わしつつ、ともかくもと朝食の支度を続けたが、膳を並べ終えた頃になっても二人分の席が空いたままだった。日向はもちろん、朝の見回りなどで普段からやって来る時間がまちまちの木吉も、ここまで顔を見せないとなるとさすがにおかしい。
 姿がないのが主神の二人だけに、何事かあったのかと不安がもたげ始めたところで、表から一羽の鳥が飛びこんできて、伊月の肩に止まった。短いさえずりの後、また外へ飛び去っていったそれが木吉の使いであることは新参の三人も知っていたので、なんだって? と促す。が。
「遅れるから、先に食べててくれって」
 それだけ言って、怪訝の眉を寄せてみせる。
「日向のことは?」
「何も言ってなかった。なんか急いでそれだけ伝えたような感じだったな」
 ますますもっておかしな話だ、とそろって首を傾げるが、急場を知らされたわけでもない。ひとまず主神の伝言に従うことにして、先に朝食を終えた。


 廊下を早足に近付く音が聞こえてきたのは、手つかずの二人分とともに膳を片付け、さて、と顔を見合わせた、ちょうどその時だった。
 視線を集めた戸口の向こうに長躯が駆け現れ、声を上げる。
「日向、いるかっ?」
 平素は低く落ち着いた声音が、あせりに上ずって聞こえた。何事かと見つめる仲間たちの輪に視線を滑らせ、ひと回り見渡してから、肩を落とす。
「やっぱりいないのか……」
「どうしたんだ? 木吉」
 一番近くに立っていた伊月が声をかけると、
「伊月っ」
 やにわに、大きな手でその両肩を掴み、二重の衝撃で目を丸くしている相手へ訴えかかるように言った。
「頼む、一緒に日向を探してくれ。急にいなくなっちまったんだ」
「いなくなった?」
 訊ね返すと、ああ、と頷く。
「今朝起きたときは、確かに気配があったはずなんだ。それがいきなり……」
 常に、というわけではないが、木吉は土地との繋がりの力を介して、森の中の状況を大まかに把握している。弓の見物をしようと修練場へ向かったところ、毎日欠かさず来ているはずの姿がなく、そこで森から日向の気が消えていることに気付いたという。
「確かに朝はいつもの時間に出てったと思うけど」
 別に変わった様子も感じなかったし、と日向と寝室の隣り合っている伊月が言う。
「森の外に用事ができたとか?」
「いや、外の鳥たちにも聞いたんだが、今朝は森から人が出てくるのを誰も見てないらしいんだ」
 もちろん見逃している可能性もあるが、あの責任感の強い日向が、なんの報せも残さずふらりと出て行ってしまうとは考え難い。それは少し心配だなと眉を寄せる土田に、木吉が沈んだ声で相槌を打つ。顕現していないはずの耳と尾がしゅんと垂れ下がって見えるようだった。
「俺、またなんか怒らせちまったのかな……」
 しょぼくれる主神の背を叩き、自分たちも気になっていたからと、全員で手分けして探しに行くことが決まる。木吉と土田が森の北西部、水戸部と小金井が南西部、伊月と使いの鳥たちが東側の全域を見て回り、正午に一度神樹のもとに集まる段取りとなった。
 じゃあ頼む、と言うが早いか化身して駆け出していった木吉とそれを慌てて追いかける土田を見送り、俺たちも行くか、と鷲の翼を広げかけた伊月に、小金井が横から声をかけた。
「なんかちょっと意外だよなぁ」
「ん?」
「いや、木吉もあんな風に慌てたりすんだなーって思って。ばたばた駆け込んできたりとかさ、珍しいじゃんか」
 な、と見上げてくるので、水戸部も同意の頷きをした。日頃から落ち着いていると言うのかのんびりしていると言うのか、土地の大神らしい泰然自若とした振る舞いの印象が強いだけに、今朝の浮足立った様子は、確かに意外と言ってよい姿だった。
「あー、ひょっとしたら木吉のやつ、日向が突然いなくなるとか、突然会えなくなるとかいうのに過敏になってるのかもしれないな」
 去年いろいろあってさ、と伊月が苦笑を交えつつ言う。
 誠凛で最も古い神である木吉に、日向と伊月の二人が出会い、森に暮らし始めた経緯については、ほんのさわりと結果の部分しか聞いていない。ことに木吉と日向の関係などは、かたや好意を開け広げにして隠さず、かたやつんけんとした態度を取り続け、といった様子で、司る力の相性の良さがあるとは言え、なぜ対の主神として立っているのか、初めは不思議でならなかったものだ。理解の深まった今ではその仲がわかるが、にしても単純に言い表せるものではない、という印象である。
「どこ行っちゃったんだろうなー、日向」
「あたりで変わった様子はないし、森から出てないなら心配はないと思うけどな……違う意味であんまりいい予感がしない」
 長い付き合いだからこその勘なのか、伊月が物思う顔でつぶやく。とは言え、主神の動揺は森の、ひいては誠凛の土地の動揺にも繋がる。早いところ見つけて安心させてやろう、と頷き合い、それぞれの割当ての方向へと足を向けた。



 それから二刻あまりをかけて森の南西を探し歩いたが、日向の姿は影も形もなかった。
 獣たちのみならず、器物・鉱物の霊にも小金井が逐一訊ねかけてみたものの、今朝は姿を見ていない、という言葉が返るのみで、ちょっとした手がかりにも行き着かない。心当たりの場所と言っても、新参の二人にはいくらも思いつかなかった。
「そもそも木吉が見つけられないのに、俺たちに見つかるかって感じだしなー」
 小金井の呟きに、それはそうだと水戸部も頷く。日頃から鼻が利き、日向の気配にはことさら鋭敏な反応を見せる木吉である。自分たちよりよほどその居場所を探し当てる力があるはずなのだ。
 陽が天頂に昇ったのを確かめ、集合場所の神樹へ向かった。ほかの三人を待ちながら、案外あっさり見つけてたりして、などと話していたが、間もなく姿を見せた木吉の浮かない表情が、すぐにそうした予想も外れたことを教えた。
「そうか、そっちにもいなかったのか……」
 肩を落として言う。きっと伊月が見つけてくれているから、と言うほかになんと声をかけていいやら考えあぐねていると、ちょうど名の挙がった月夜の神が、ざっと枝の鳴る音とともに、空から降り立った。
「伊月、見つかったか?」
 すぐに駆け寄った木吉が切羽詰まった声で問う。横にそらされた視線に、やはり駄目だったのだろうか、と一瞬眉を寄せた仲間たちだったが、
「あー……結果的には、見つけた」
 思わぬ答えが告げられ、え、と声を揃える。朗報のはずなのだが、しかしそれを口にした当人はなぜか気まずげな表情のまま、そこから先を口にしない。
「何かあったのか?」
 木吉が不安を浮かべて訊ねると、いや、と首が振られる。
「心配するようなことはないよ。……ただ、なんとも言いづらいというか、本人の名誉のためにもそっとしといたほうがいい気がするというか……」
 いつになく歯切れの悪い伊月にさらに歩を寄せ、朝方の再現のように肩を掴んで、頼む、と木吉が懇願に近い声で言った。
「伊月、教えてくれ。ちゃんと自分の目で確かめたいんだ」
 静かな口調には、頷いてくれるまで一歩も引かない、とすら言いたげな強い意志がにじんでいる。伊月はまた少し迷いの間を置いたが、最後には息を落としつつも了承を唱えた。
「コガたちも来てくれ。何かあったら俺だけだとしんどい」
 既に疲れ切っているような言葉に首を傾げつつ、道を示す伊月の背を追って歩き出した。


 宿舎を東に過ぎたところで、不意に小金井が異変を訴え始めた。
「なんか、ミョーな匂いがする」
 眉をしかめている。鼻の具合が悪かったのではないのかと水戸部が問うと、
「うん。だからなんの匂いかまではわかんないんだけど」
 そう言ってすんと鼻をすする。何かの香りが漂っていることだけは感じる、ということだろうか。小金井の鼻が特別良いということはないのだが、伊月を除くほかの三人がそれに気付いたのは、そこからもう少し先へ進んでからのことだった。
「確かに何か嗅ぎ慣れない匂いがするな」
 土田の言葉に水戸部と木吉が頷き、先頭の伊月を見れば、困ったような笑いをこらえているような、なんとも言えない表情を浮かべている。ややあって、あ、と何かに気付く声がふたつ重なった。
「これって……」
 小金井が言葉を続けるより早く、
「日向っ」
 ひとつ呼び声を上げ、木吉が前へ駆け出す。横から呼んで引き止める間もなく、森の主のため慌てて身をよじり道を作る木々の間を抜け、灰茶の尾を翻す長躯は見る間に繁みの向こうへ消えた。
「コガはどうしたんだ?」
 木吉が感じたのはまず間違いなく日向の存在だが、小金井は何か別のものに気付いたようだ。土田の問いかけに、うーん、と先の伊月と同じような顔をする。
「行ったらわかると思う。な、伊月」
「ああ。もうすぐそこだし」
 語り交わしつつ、先行した木吉につられて少し早足になりながら、四人は草木の混み合った獣道を抜け、やや開けた地面の上に出た。前方に黒の直衣の背が見える。前を見据えて微動だにもせず、まさに立ち尽くしている、という形容がふさわしい姿だった。
「木吉?」
 歩み寄りながら誰ともなく呼びかけるのに、なんで、とわななくような声が落ちる。
「日向……なんでこんなことに……」
 一体どうしたのかと背を回り込む前に、長躯の膝ががくりとくずおれたので、後ろの四人にも「それ」が見えた。
 木吉が座り込んだ場所の数歩先に、周りの木々から少し離れて一本の若木が伸び立っている。いずれ立派な大樹となるだろう欅だが、この光景において、それ自体はさして重要な存在ではなかった。何よりもまず目を引いたのは、その根元から、ほとんど幹一面に巻きつき繁った、もうひとかたの蔓木であり――

「んにゃぁー」

 その枝葉に身をすり寄せて啼いている、小さな黒猫の姿であった。


「……あれひょっとすると」
「日向だねひょっとしなくても」
「……」
「『苦労を察しました』って顔をありがとう水戸部」
 一応見つけた時に声かけたんだけど、聞く耳持たずでさ、と伊月が何度目かのため息をつく。その言葉の通り、黒猫、もとい日向は、姿をひそめているわけでもない五人の存在も一顧だにせず、ただ一心に傍らの木にじゃれついている。目を細めて身をすり寄せ、ころころと喉を鳴らしてさえおり、さすがに尋常の様子には見えなかった。
「日向ぁ……変わり果てた姿になっちまって……」
「木吉もなんか物騒な言い方やめてくれ」
「ん、『なんであんなことに』? あーあれ、マタタビなんだよ」
「マタタビって、猫が酔っぱらうってあれか……」
 小金井の指摘に、なるほど、と頷く。途中で異変に気付いていたのも、日向と同じく神体が猫である所以だろう。自分は大丈夫かと問うと、鼻が駄目になっているし、個人差があって俺はあんまり効かないほうだから、との答えが返った。
「それでもなんかすげーキツいよこれ……普通はここまでじゃねーもん。なるべく離れてよ」
「日向の力が変に効いちゃってるのかもな」
 伊月が言う。陽光の神である日向は、陽のもとに生きる獣や草木を育み、活性化させる力を持っており、その予想は的を射たもののようだった。さらに言うなら、今まで誰も気付かなかったことを考えると、このマタタビは本当はまだ育ち始めたばかりのところだったのかもしれない。
「そういえば、今朝は強い東風が吹いてたな」
 早朝、流れてきたかすかな香気に気付いた日向が、元を確かめようと近付いて、逆に香りに囚われてしまい、懐けば懐くほど木は育ってさらに香気を振りまき……といった成り行きではないだろうか、と推察する。
「木吉が見つけられなかったのは?」
「猫の姿だと気配が小さくなるし、あの感じだと盛大に気が散ってるか逆に集中し過ぎてるかで探り取れなかったんじゃないか? なぁ木吉、……木吉ー、しっかりしろ」
 仲間たちの語り合う声も耳に入らない様子で、木吉は猫の日向に必死に呼びかけている。
「日向ぁ」
「うにゃー?」
「なあ帰ろう、日向」
「みゃう」
「か、かわいい……、い……いや、違うっ……」
 何かをこらえるように首を振り、一歩近付いて小さな身体に手を差し出すが、黒猫は身をやわらかくくねらせてそれを避け、ぐいと腕を突っ張って木吉の指をのけようとする。
「むー」
「くっ……、に、肉球は卑怯だぞ日向……!」
 なんだこの画、と後ろで見守る四人の心の声が見事に唱和する。
 傍目には酔って本能をむき出しにしている小さな猫と、それにうろたえる大男にしか見えないのだが、どちらもまごうかたなき土地の主神なのである。ほかに誰もいなくて良かった、と眷属の神々は心から思った。ひょっとすると、森の獣や精霊たちから日向の居場所を聞けなかったのは、知らなかったのではなく、みな見て見ぬふりをして黙ってくれていたからかもしれないと、そんな憶測までが頭をよぎる。
 遠方に馳せていた目を前に戻せば、うにゃうにゃと呟きながら仰向けに転がった日向に、そんな無防備にハラ見せちゃ駄目だだのなんだのと木吉が顔を真っ赤にして騒いでいる。いつにも増して大神の威厳などという言葉とは無縁の姿だった。

「木吉、力ずくでもなんでもそこから離さないと、埒が明かないぞ」
「でもこいつに乱暴なことは……」
 助言に眉を弱らせつつ、そうだとりあえず化身を、と言って印を組み、真言を唱え始める。獣化が解かれれば多少なりとも獣の性が薄れ、マタタビに対する反応も少しは鈍くなるはず。その判断自体は確かに正しいものに思えた。が。
「……ひゅ、ひゅうが」
「ぅにゃん」
 解の言葉とともに弾けた光の先に現れたのは、当然ながらと言うべきか、猫の耳と尾を生やした男が樹木に身を寄せ懐いている、というただひたすらに異様の程度の増した光景だった。
 そもそもの試みも忘れ、木吉は唖然とそれを見つめて固まっている。無理もない。猫の姿ならまだほほ笑ましいの範疇に入るものであったかもしれないが、ほの赤く上気した頬に恍惚の表情を浮かべ、しどけなく樹に寄りかかっている人の様など、ある種の意識を持って眺めるなと言うほうが無茶な相談である。
「なんだこの画……」
 先ほどはかろうじて呑んだ言葉が誰かの口から漏れ落ちた。気まずくそらす機すら逸した視線の先で、この地の史上一番に無価値であろう愁嘆場が繰り広げられている。
「んぅー」
「日向ぁ、帰ろうってぇ」
「ぃにゃー」
「あーほら、そんなくっ付いたら葉で顔が切れちま……」
「みゃぁん」
「あああっ、なに舐めてるんだ日向っ、し、舌が……」
「んにゃぁ……」
「う……、俺にもそんな顔見せてくれたことないのに……!」
 蕩けた表情で樹にすり寄っている一人と、ほとんど泣きかけになりながらそれにすがりつくようにしている一人。くり返しの認識になるが、目をそらそうとそらすまいと、間違いなく彼らは土地の者たちの崇敬を集める対の主神である。
「この森ほんと平和だなぁ」
「なんかもう帰りたい」
「でも放っとくとまたややこしそーだし」
「……」
「うにゃ」
「ハラ見せちゃダメー!」

 自分の今の姿も把握できていないのだろう、とろりとした目のまま、また樹の根元に背を転がしかけた日向の身体を木吉が慌てて掴み止める。ほとんど抱きかぶさる姿勢になるが、常なら瞬時に騒ぎ立てその腕を引きはがそうとする日向は、むずがるように身をよじりはするものの、むしろ少し落ち着きを取り戻し始めたようにも見えた。
 袖で鼻を押さえながら、小金井が前へ声を投げる。
「木吉ー、そのまんま待ってれば大丈夫だと思うぞー。ちょっと匂い薄れてきたっぽい」
 もともとマタタビの酔いってほんとはそんなに長く続かないはずだし、と言う。木吉が樹と日向のあいだに身体を入れ込む形となり、活性の力が途切れたのだろう。
「そ、そうか、じゃあ……スマン、今のうちにそっちに運ぶから手を貸してくれ」
 頼みに応じて水戸部が駆け寄り、地面にへたり込んだ日向を二人でそっと持ち上げる。力の抜け切った身体は重く感じられたが、どうにか暴れられずに場所を移すことができた。
 倒木に背を預ける姿勢で座らせ、正面にしゃがんだ木吉が何度か頬を叩いて名を呼びかけると、うつろに宙を見ていた瞳が一度閉じ、またゆっくりと、かすかな光を取り戻して開き始めた。
「……きよし?」
 こぼれた人の声に、木吉が顔を輝かせて答える。
「ひゅうがっ、日向、気付いたんだな。良かった……!」
「んー……?」
 深い眠りから覚めたようにごしごしと目をこすっている日向の手を、木吉がやにわに自分の両手で握り込む。
「日向、……真剣に答えてくれ」
 言い募る声は、周囲の空気が一瞬ひりつくほどの切実をにじませていた。仲間たちが思わず言葉を収めて見つめる中、ゆっくりと口が開く。

「日向……俺とマタタビとどっちが好きなんだっ?」

「……なに言ってんの?」

 二秒で切り返され、三秒で霧散した張り詰めた空気の沈んでいく場に、形容しがたい虚脱感だけが残る。
(木吉……頼むからそろそろ大神らしい発言してくれ)
(正しい返し過ぎるなぁ)
(でも直前の行動が行動だけに強烈な「お前が言うな」感)
(……)
(こんな時はつっこんでやるのが優しさだぞ水戸部)
 小さく感想を述べ合う仲間をよそに、二名のちぐはぐなやり取りが続く。
「日向頼む、答えてくれねーと俺今夜眠れなくなっちまうぞっ」
「なんでお前の安眠に俺が協力しねきゃならねぇんだよ……」
「日向ぁ」
「……つーか、なんかいい匂いしねぇ?」
「しない。何もない」
「そうか……?」
 潔いほどきっぱりと否定した木吉に首を傾げつつ、日向はまだ酔いの抜け切っていない様子で鼻をひくつかせている。と、不意に何かに気付いたように、顕現したままの尾をぴんと立てた。
「……お前か?」
「え?」
「お前の匂いなら、好きだ」
 え、と落ちる声が言葉になるより早く、日向は前へ倒れ込むように木吉の胸に顔を寄せた。
「落ち着くし、すげぇあんしんする……」
 鼻先を直衣の胸元にすり寄せ、うっとりとした声音で言う。
「そ、そうか」
「んにゃぅ……」
 わななきつつ輪をせばめる腕のぬくもりと酔いとの重ね合わせで眠気に襲われたのか、しぼんでいく返事の最後はほとんど猫の啼き声になっていた。
 健やかな寝息の音だけが、しばし森のしじまに流れる。一名は感動に打ち震えており、一名は夢の中で、残る四名はなんとも言いようのない気まずさを沈黙とともに分け合っていた。
「……帰るか」
 頭上の雲が形を変えて流れ去るまでのたっぷりの間を置き、ようやく落ちた誰かの発言で、堰を切ったように場が動き出す。もはや目も当てられないほど相好崩し切った木吉を立ち上がらせ、帰路の相談をした。
「日向は俺が化身して背中に乗せてくな」
「そうだな。……マタタビはどうする?」
「あのままでもいいんじゃね? あとで日向に近寄らないように言っとけばさ」
 もともと普通の樹なんだし、と言うのに頷きつつ、
「でももし何年かして木霊が宿ったりしたら大変そうだなぁ。日向がめろめろになっちゃたりして……」
 冗談混じりに呟いた土田の言葉に、風の音が一瞬絶え、ぎぎ、とからくり仕掛けじみた動きで、日向を抱えかけていた木吉が首を振り向かせる。
「顔怖っ」
「ごめん、なんか踏んじゃいけないもの踏んだ?」
「見事に踏み抜いたな……」
 たじろぐ四人の視線の先で一瞬前までの笑みをふつりと消した木吉は、そうか、と低い声を落として再び立ち上がった。
「備えあれば憂いなしって言うしなぁ。……よし、燃やそう」
「待て待て待て、落ち着け!」
「よりによってお前がそれ言ったらダメだろー!」
「……!」
「俺が悪かったよ! 大丈夫だって!」
 迷いのない瞳で言い切る主神を慌てて押しとどめる。あの時は本当に背筋が凍った、とのちの日までの語り草となる説得劇は、日向が寝言で木吉の名を呼ぶまで続いた。



「どっと疲れたな……」
 どうにか事がおさまり、宿舎への帰路を歩きながら、伊月が深々とため息を落とした。初めに日向を見つけた立場だけに、感じる疲労もひとしおだろう。ぽんぽんと背を叩いてねぎらいながら、前方を進む巨躯の狼とその背から日向が落ちないように横についている土田の背を眺め、とは言え、と考える。
「なに、水戸部。……『でも無事で安心したし、珍しいとこが見れて良かった』? あー、確かになー」
「呆れたの間違いじゃないのか……?」
 代弁された水戸部の言葉とそれに頷く小金井に、伊月が苦笑いを浮かべて言う。それもなくはないけど、と小金井が続けた。
「朝も話したけどさ、木吉と日向ってお互い違う感じでミョーに真面目だったり硬かったりするじゃん。だからああいう隙ってのかな? 慌ててたりちょっと変なところとか見れるといいよなって」
「木吉はともかく、日向の硬さってだいぶ繕ってるけどな」
「素がわかったほうがラクだし、親近感湧くじゃんか」
 なあ、と見上げてくる猫目に、ほほ笑んで頷く。
 二人がこの地の主神になってから、まだ丸一年も経たないのだと聞いた。新参の水戸部たちにも、にわかに活気づき始めた神域と森を護り導くため、彼らが気を張っているのはひしひしと伝わってきた。ことに日向は自身の経験の浅さを気にしているらしく、大神である木吉の足手まといにならないようにと思うのか、必要以上に背筋を伸ばしているのが傍目にもわかった。きっと無理もしている。だから本当はそう気を遣ってほしくなかったし、今日のような出来事はそれを崩すきっかけとして嬉しかったのだ。
 ……まあ、きっかけと言うにはいささか突き抜け過ぎたものを見聞きしてしまった気は大いにするが。
「日向、自分のしたこと憶えてんのかな」
「全部わからないってことはないだろうけど、どっちにしろ面倒だな……しばらくつつかないほうが良さそうだ」
 それでも結局はのちの笑い話と照れからの噴火の種になるだろう、と苦笑を重ねながら、木々の向こうへ小さくなってしまった主神たちに追いつくべく、三人は足の運びを速めた。


      ◇


「――てなことがありましたとさ」
 めでたしめでたし、とでも続けるような調子で語り終えた小金井に、ほおー、と後輩分たちが感嘆のような納得のような声を返す。かなり子細に及ぶ話になったが、ひとまず呆れには繋がらずに済んだようだ。
「懐かしいな。やっぱりあれから一気に打ち解けたかな」
「日向も結局半分ぐらい憶えてて、木吉もすぐに喋っちゃうもんだから、最後はほとんど開き直ってたもんなー」
「今は開き直れねぇのか、……ですか?」
 笑う小金井の言葉に火神がぽつりと問いを重ねる。そういえばこの話はそこから始まったんだった、と視線を合わせた。二人の仲が何十年も前から変わらず繋がっている事実は伝わったようだが、では今の日向の態度は、と言うとやはりまだ腑に落ちないものがあるらしい。
「心配ないって。さっきの見てたろ?」
「さっきの、って?」
「こう、木吉が何か話しかけるたびに、日向の尻尾がぱたぱた動いてたの」
「ああ……なるほど」
「え、おい黒子、なんでお前だけわかってんだよっ」
 眉を寄せる火神に、あれはさ、と小金井が言葉を続けかける。――が。
「あれは猫の」
「猫がどうしたって小金井くん……?」
 地に引きずるような声とともに後ろから手が伸び、小金井の口を無理やりふさぐ。見れば、いつの間に部屋へ入ってきたのか、薄笑いを浮かべた日向が車座の背後にしゃがみ込んでいた。
「ちょ、いひゃいってひゅーが! 爪くいこんでるって!」
「あーなんかこれ以上猫の話が続いたらますます爪が伸びそうな気がするなー」
 わかったもう話さないからさ、ともがく小金井の言葉を受けてようやく手を離し、日向は腕を組んで立ち上がった。
「なんの話してたかしらねぇが、やめだやめ。飯できたぞ」
 どうやら最後のやり取りの部分しか聞いていなかったらしい。まさか肝心の話が回避できていないとも知らず、行くぞほら、と小金井の肩を掴んだまま廊下へ出て歩き始める。残る四人が後ろで笑いを噛み殺していると、さらに後方から木吉がこちらへやって来た。よー、と手を上げながら、首を傾げる。
「みんなで集まってどうしたんだ?」
「昔話をお聞きしていました。……マタタビの」
 ひそりと黒子が言えば、ああ、と笑みが返る。火神はまだ先ほど聞きそびれた説明を気にしていたが、あとで教えますから、と言う黒子の言葉にようやく納得したように頷いた。そうして、
「なあ、木吉さんはあの人……日向さんが自分に冷てぇとか、思わねぇのか?」
 ですか、と相変わらずのたどたどしい敬語で当人に訊ねかける。木吉はまさか、とほほ笑んで答えた。
「日向はいつだって優しいし、あったかいぞ」
 何かを察したのか、ありがとな、と大きな手で火神の頭をわしわしと撫でる。火神はそうすか、と照れ臭げに頷いてから、何かを思い出したように問いを付け足した。
「あの、マタタビって本気で燃やしちまってはねぇんすよね?」
「ん? 当然だろ」
「そうか」
 ほっと息をつく火神が言葉を続ける前に、
「なんとかと鋏は使いよう、って言うだろう?」
 朗らかな声が落ち、底冷えすら感じるほどの隙のない笑みをその場に残して、大樹の神はゆったりとした足取りで恋人の背を追い歩き去っていった。
「……素ってときどき怖いよな」
「……」
「ナントカとハサミってなんだ?」
「色々な状況に使いますが、この場合詳細はともかく」
 火神の疑問に黒子は考え深げに頷き、結果として火神君の懸念が晴れるのだけは確かです、と静やかに答えた。



 夕飯を終えて夜も更け始めた頃、小金井と水戸部が廊下を歩いていると、再び夕方と同じ状況になっている主神二人の姿が見えた。

「なあ日向、さっき都から便りがあって、また何人かこっちに流れてくるってさ」
 ぱたん。
「この前みたいないざこざが起きないといいんだが」
 ぱたん。
「ちょっと風が冷たいな。明日は雨になるかもな」
 ぱたん。
「ずっと外に出通しだし、ちょうどいいか」
 ぱたん。
「そろそろ休みが欲しいよなー」
 ぱたん。

 遠く眺めながら、まあ、と小金井が口を開く。
「知らなかったらなんだあれ、だよなー」
 木吉も木吉だし、と笑う。
 初めは、それこそ今日の火神のように、こちらが案じてしまうほど煮え切らない関係に見えた二人だった。が、素がわかってしまえばなんのことはない。互いへの理解が深すぎて、周りがその奇妙なやり取りに立ち入れないだけなのだ。
 日向は自分の神体が猫であることを(主に幼馴染と恋人のそれとの比較で)あまり気に入ってはいないようだが、外見はよほどそれに近しい小金井は、あいつ中身は凄く猫らしい猫だよな、と語る。初めにそれを聞いたのは、誰かが火神と同じ問いを発し、その謎に答えてみせた時だったろうか。
『猫ってさ、眠いときとか手が離せないときとか、尻尾で返事すんだよね』
 つまり、と結論するまでもなく、もうあいつらには触れないでそっとしておこう、という空気ができあがり始めたのも確かその頃のことだ。
「『仲がいいのはいいことだ』? ま、そだね」
 この十五年の彼らの哀しみの深さを考えれば、周りがほんの少しの気を遣うぐらいは何ということもない。
 我らが主神に今後絶えぬ幸あれかしと願って、さて末の子の疑問は無事に解けただろうかと言い交わしながら、出歯亀になる前に睦言の続く部屋に背を向けた。



「なんかな、さっき火神が心配してたみたいだぞ」
 ぱた、ぱたん。
「あ、でもちゃんと説明はしておいたから」
 ぱたん。
「火神も黒子もいい子だよな」
 ぱたん。
「日向ぁ」
 ぱた。
「好きだぞー」
 ……ぱたん。



(今は少し忙しくて返事をしてやれないけれど)

(大切なお前の声は、ちゃんと聞こえているよ)


―了―

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