ナンバーXカプリチオ
「ファンクラブ?」
「名前は違ぇけど、そんなようなやつ」
夕飯後の雑談中、ふとした流れで互いの事務所の近況に話が及び、秘匿義務のない(または身内にそっと教える程度ならお目こぼしされる)活動のあれこれを語り合っていると、そんな語が轟の口からほろりとこぼれてきた。思わずおうむ返しにした予想外の言葉に、頷きとともに説明が足される。
ファンクラブ。読んで字のごとくの、個性発現以前の時代から存在する概念だ。当時は歌手やアイドルなどの芸能人を、現代ではそこに加えて職業ヒーローを対象とする応援者組織。広義には私設の団体も含まれるが、今回の轟の場合、ヒーロー本人または事務所により作られ運営される公認組織、つまりヒーロー・ショートの公式ファンクラブを作る話が固まったらしい。開設告知日は明日だというので、二重に驚いた。
「それはまた急だな。いや準備は以前からしていたのだろうが」
「別に言いふらす話でもねぇから忘れてた。やっぱ変か?」
「まさか変だなんてことはないぞ。そういえばまだなかったのだな、と思って」
ファンクラブと呼ぶと近年のヒーロー脱タレント化の流れに逆行するもののように感じてしまうが、私設団体はともかく、昨今の公認組織に関しては、そのほとんどが応援するヒーローとの健全なつながりを主眼に置いて作られたものだ。会費収入の使途は公安委員会の審査により限度額の定められた活動費用の充当に限定されており、超過分は寄付等の社会活動に回され、それらの活動内容と会計の詳細は、全て事前公表および定期的な情報開示が義務付けられている。会員への還元も、非会員との差別感が大きくならない範囲、たとえば広報冊子の配布や発売前グッズの先行抽選贈呈などの、ささやかな特典が設定されている場合が多い。
なので実質的には支援会、後援会、サポーターズクラブといったあたりの呼び名が似つかわしい概念となっているのだが、事務所ごとに異なる組織名の総称、愛称のようなものとして、多少の問題提起はなされながらも理想論にわかりやすさが勝り、今も世間一般では伝統的に「ファンクラブ」の語が使われ続けている。
といったわけで、よほどの原理主義者でなければ設置にしり込みするようなものではなく、それなり以上の規模の事務所ならあるのが普通とさえ言えるので、トップチャートに名を連ねる彼がそれを持たないことを、今の今まで忘れていたのだ。続く話によれば、かねてから多数の設立要望が届いてはいたが、実現するための手が足りず、昨秋に中途入所した経験者の事務スタッフが中核となって準備を進め、ようやくスタートの体制がととのった、という事情らしい。
「君のところは東京に越してきてからずっと少人数での実働に追われていたものな」
余裕が出てきたのはとても良いことだ、と素直に祝する。轟も同意し、お前のところのやり方も参考に聞かせてほしいと頼んできた。ふむと首をひねる。
「うちはできて長いが、俺個人ではなくてチームの後援会だからなぁ……個人名義の会がある誰かに訊いてみたほうが、類似の点が多くていいかもしれない。A組なら耳郎くんとか」
「あいつは俺がそういうこと訊いても、恥ずいとか言って教えてくれねぇ気がする」
「む、確かに。彼女は照れ屋さんだからな!」
兄の事務所とチームをそのまま継いだ自分を除いては、A組内での〝ファンクラブ〟設立者第一号である耳郎と、設立のニュースに反応して愛ある冷やかしを贈ったA組の仲間たち(筆頭は上鳴であったか)とのグループチャット上での喧々囂々の様はいまだ記憶に新しい。確かに意外な先駆者だったが、彼女の場合はヒーローデビュー前から雄英での音楽活動をきっかけに有志が立ち上げた私設ファンクラブが存在し、その熱心な応援への感謝に伴う公認化、という経緯があったため、通常の設立の流れとはやや趣が異なっている。活動や還元もそうした位置付けを汲んだものとしている可能性はある。
であればまあ、とあくまでチーム単位の支援組織であることを述べ置いてのち、イダテン後援会での二、三の活動内容を教えた。
「あとは、やはり活動報告誌の配布はどこの事務所でもおおよそしているのではないかな」
「そうみたいだな。うちもやるって話になってる」
今はウェブを介してレポートを公開している事務所が大多数であるものの、やはり熱心なファンは形として手元に残るものを好むという。また大所帯のイダテン特有の悩みとして、マスコミの取材記事や、欲しい情報のみ拾われがちなウェブ上ではチームの裏方の活躍を伝えるのが難しいという事情があり、頭から順に読んでもらいやすい冊子媒体はそうした課題の解消にも寄与しているとのことだ。
「ファンサービスとして冊子に写真やサインなどを載せることも多いと思うが、俺は時間があればチーム代表として自筆の手紙を書いて同封してもらうようにしているよ。自筆と言ってももちろんそれぞれはコピーだが」
「どんなこと書いてんだ?」
「そんなに大したことではないよ。日頃の感謝やチームの近況報告や、ほとんど世間話に近い内容になってしまうこともあるし……応援してくれる方たちにより身近に感じてもらいたいと思って始めたんだが、想像していた以上に好評を頂いているそうだ」
「いいな。お前の字、すげぇお前って感じだしな」
もらったやつは嬉しいだろうな、とくり返し頷く轟に、字については良く言われるがぴんと来ないんだと笑いつつ、君にも向いているやり方だと思うと提案した。轟は学生時代から習慣的に手紙を書いているし、流麗に整った字は彼の繊細な心根を顕わすようでとても好ましい。あのショートが直筆の手紙を、という印象のギャップも含め、手にしたファンはきっと喜ぶだろう。
旨い蕎麦屋の紹介とかでもいいのか、と老舗の名店を詰め寄せたファンでパンクさせそうなことを言い出したのにはやんわりと忠告などしつつ、開設の日が楽しみだなと、その日はそうして和やかに話題を終えた。
――が。
実際のところはと言うと、その時の飯田の胸中は和やかとはまるで正反対の、嵐のごとき騒乱に満たされていた。古来より〝ファンクラブ〟と呼ばれる組織に憑くとされる怪物に支配されていた、と言っていい。
アイドル全盛の時代には人々を熱狂と怒号と悲哀の渦に巻き込んだとも言われる、無情で無機質な数字の並び。合理的な管理システム上のごく単純なる識別情報でありながら、同時に固有の序列をも生み出し得るその怪物の名を、人は古来よりごく単純に、「会員ナンバー」と呼んでいる。
初めにいくつかの註を付けるとするなら、飯田は会員番号の数字に貴賤を見出しているわけではない。他人のファンクラブに対しても、もちろん自身の所属するチームのファンクラブに対しても、一番会員であろうが、百番会員であろうが、一万番会員であろうが、全て公平で平等な存在である、と疑いの欠片もなく思っている。と同時に、番号の大小を気にしたり、他者と比べたりという、少々の対抗意識や競争意識を芽生えさせ得る情報であることも理解している。入会順に番号が振られていく以上、たとえば十万番の会員から見れば一桁ナンバー、二桁ナンバーの会員など先達も先達ということになり、そこに何かしらの感慨が生まれてしまうのは致し方ないことだろう。
序列は時に不毛な優劣の主張につながり、トラブルに発展する例もあるため、最近では入会番号は非公表とし、識別情報としてランダムな文字列を別途付与するなどの措置を取る事務所も出てきているそうだ。しかし管理の手間は確実に増えるので、ただでも事務の手が不足しがちだという轟へ勧める案ではないだろう。万が一にも話の流れでこちらの思惑が伝わってしまった日には、気まずいどころの話ではない。
いや、思惑、などともって回った語を使うほどの考えではない。
――ショートファンクラブの会員ナンバー一番が欲しい。
そんな女子中高生の抱くような願いが、ファンクラブ開設の話を聞いてからの一週間、休日返上の多忙の中に紛れもせず、飯田の頭に居座り続けている偽らざる本音である。
「……届いてしまった」
そうして今、飯田の手元にはショートの名の大きく記された大判の封筒がある。
しまった、などと思わずこぼしたが、話を聞いた翌日、告知早々に彼の事務所の公式サイトを訪れ、自らの手で資料請求の申し込みをしたのだから当たり前の成果だ。なおシステムで自動処理されるであろうことがわかっていても本名を入力することがどうしてもためらわれて、「法人」のチェックを入れて事務所の名と住所を騙った。朝から待ち構えていた郵便物を配達員から直接受け取り、チームリーダー自ら仕分けするという妙な動きをして事務スタッフに首傾げられてしまったが、自宅に届いてまさかの当人に見つけられるよりは百倍ましである。
昼休憩に入るや誰もいない小会議室にこもって封筒を開き、まず現れた表紙の美丈夫の写真にどきりとして(と同時に「これは眠いと思っているところを撮られた顔だな」と少し笑って)から、中の資料を熟読した。活動や規約にこれと注目する特徴があるわけでもない、ごく一般的な後援会だ。対象のヒーローの人気のほどを考えればかなり地味な内容とさえ言える。会費の余剰分は災害義捐金に充てられるほか、彼が以前から支援を続けている全国の児童養護団体や、同種の施設へも寄付されるようだ。
入会申し込みの開始日は三日後の昼十二時から。ウェブ上の特設ページまたは同封の用紙での受け付けとなる。つらつらと書かれた事務的な説明の末尾に、米印を頭に付けた注記の一文。
〝会員番号は先着順に付与いたします。〟
うん、そうだろうな、と飯田は誰にともなく得心の頷きをした。ごく普通、ごく一般的なやり方だ。彼の人気である。初日で四桁は確実に、ともすると五桁番号まで届いて、その後も順調に埋まっていくことだろう。目当ての番号があったとしても、得られる確率はまさしく万にひとつ。運のみならず手指の素早さも求められる。宝くじよりは多少ましな賭けか、といったところだろう。
しかし裏を返せば、入会者が一万人いたなら、うちの一名、確実にいるのだ。〝その番号〟を手にする者が。
「……一番が欲しい……」
口の端から落ちた声は自分の耳でもあまりに弱くいじましく聞こえ、追ってこぼれたため息に呑まれてすぐに消えた。
万にひとつの可能性に賭けて、三日後の十二時、正真正銘我が恋人
君である人気ヒーローのファンクラブの入会申し込みに本気で挑むや否や。それがこの一週間、飯田の頭を悩ませ続けているただひとつの問いだ。
なにごとにつけナンバー1というのは特別な響きを持つ数字ではあるが、唯一それだけが
貴く、他の数字が劣っているなどと馬鹿なことを吹くつもりはない。どこの誰のファン組織であれ、一番会員こそが一番の愛を持っている、などと囃し立てるつもりは毛頭ない。まして自分は彼の公の伴侶という幸いを享受している立場だ。そんな人間が純粋に彼を応援するファンに混じり入り、彼への一番の愛がどうだと語るなど、とんだ卑怯な行いであって、場違いが過ぎるというものだ。
しかし、しかし。
全て理解していてなお自分は、〝その番号〟が欲しいのだ。
なぜならば、それは自分にとって、ただの見栄や主張の数字などではないから。
たとえ今の彼との関係を全て脇へ排してしまったとて、我こそが、「飯田天哉がヒーロー・ショートの第一番目のファンである」という点に関しては、思い込みや思い上がりなどではない、ただひとつの純然たる事実であるからだ。
はや十年前になるあの日、私怨に盲いて冷たい地面に伏し、全てを失いかけた愚かな自分を背にかばって、厳しくも優しい叱咤で立ち上がらせてくれた若き氷炎のヒーローは、まさにその瞬間から、飯田にとって特別な存在になった。兄ともまた違う、声を姿を思い起こすだけで情熱と勇気を胸にみなぎらせてくれる、無二の燈し火で、英雄。それが飯田にとってのヒーロー・ショートだった。
掲げてひと月にもならないその名に初めに救われ、初めに目を奪われ憧憬を抱いたのは、きっと、いや絶対に、この自分であるはずなのだ。経緯と立場を考えれば、軽々に誇るべきことではないのかもしれない。だが己の一生を変えた幸いであったことを、今でも微塵も疑ってはいない。
ファンクラブのナンバー1が彼の初めのファンであることを証されるわけではない。手にした者も当然そうとは思わないだろう。だが数字は確実に、不可逆に、この世の誰かひとりのものとなり、あとの者の手にはもう与えられ得ないのだ。
はああ、とまた深いため息がこぼれ落ちる。幼稚な張り合い意識、独占欲に囚われていることは重々承知している。わかっているというのにさっぱりと納得して諦められず、うじうじと考え続けているから、余計にため息が止まらなくなってしまう。
いっそ本人に伝えて一蹴されてしまおうか。しかし首傾げられるだけで終わればいいが、もしも呆れられてしまったら、もうまともに顔が見られないかもしれない。こんなしょうもないきっかけで破局の危機を迎えたくなどはない。
緑谷に相談するのはどうだろう。長年の、そして筋金入りのヒーローファンである彼なら、健全なファン活動(昨今では推し活、と言うらしい)にもとる心がけだと、真面目な叱責で目を覚まさせてくれるのではないだろうか。……いやしかし、友情に篤い緑谷のことだ。ひょっとすると咎めずに背中を押してくれてしまうやもしれない。自分も手伝う、などと申し出られた日には、もはや完全に後戻りができなくなる――
煩悶の渦に呑まれたまま休憩時間は終わり、昼食を食べ損ねたことも忘れてとぼとぼと会議室を出たところで、チームの広報スタッフに声をかけられた。後援会のことで、と転がり出てきた言葉にうぐぅと思わずうめき声を発してしまい、首傾げられて慌てて手振りと咳払いでごまかす。咄嗟に封筒を背に隠す動きまで含めて不自然さは如実であったろうが、慣れた古参スタッフは踏み込んで訊かずにいてくれた。
用件は事務的な二、三の確認のみですぐに終わり、必然と言えば必然の流れで「ショートのファンクラブ開設」に話題が移った。ああそうらしいですね俺もつい先日聞いたので、と嘘ではないのに妙に白々しく響いてしまう声で言葉を返しつつ、ごく興味本位、の顔を装い、専門家の見立てを聞いてみた。
「まぁあちらの人気なので、初日で一万人越えは堅いでしょうねぇ」
「……ですよね」
「様式美みたいなものですけど、受け付け開始すぐにサーバーがパンクしてニュースになると思いますよ。先着の番号争いっていまだに結構あるみたいですし」
「ああ」
やはりそうなのかと内心で頷く飯田をよそに、うちはどんなにファンが押し寄せてもシステムを落としたりませんよ、それこそ一番さんの加護がありますからね、とスタッフが胸張って言う。
「だから前々から言ってますが、天哉くんも個人の後援会なんかを作りたくなったらいつでもおねだりしてきてくださいね。全力でバックアップしますので」
「ああいや、それは、ええと……またいずれ検討ということで」
兄の代から世話になっているベテラン所員たちは仕事の上ではいつもとても頼もしいが、隙あらば〝二代目インゲニウム〟を甘やかそうとしてくるのが玉に瑕だ。特に広報担当の人間は、それが職務であり自然な姿勢ではあるものの、外部への売り出し欲が強く、事務所のカラーにふさわしい実を重視した計画を立ててくれている一方で、飯田の名と顔をより前へ押し出す機会も虎視眈々とうかがっているらしい。世間に知られ、自分たちの考えや活動内容を伝えていくのも重要な仕事と考えているが、若輩に不相応な露出が考案されていることもまれにあり、安請け合いには注意が必要である。
じゃあ先方への返信はしておきます、と初めの事務確認を持ち出して爛と輝く目から逃げ、その場をあとにした。大股に内務用のデスクへ戻り、PCを再稼働させてメールの作成画面を開く。冒頭に打ち込んだ名は奇しくも先のスタッフ称するところの「一番さん」ことイダテン後援会の一番会員のもので、個人ではなく法人、より正確に言えば祖父の古い友人が代表を務める私企業である。祖父の活動開始と同時期に興したという、主にヒーロー事務所運営のためのシステム開発と運用を手がける会社で、堅実な技術力と時世に柔軟に適応した業務姿勢に定評があり、飯田家とは公私両面で長い付き合いがある相手だ。
それなりのベンチャー気質を持って父の事務所から独立した兄も、チーム立ち上げの際には無用な意地を張らずにすぐさま支援を頼んだそうで、今日まで続くイダテンの管制システムの運用委託先となっている。取引先と言うよりほとんど身内に近い存在として、他の事務所関係者のみならず一般のファンにも名が知られており、後援会の第一の会員になることに対しても外部からの反発は全くなかったらしい。
こうした話は自分たちの例に限らず、一定の承継の流れを汲む事務所ではまま聞かれるもので、そこはヒーローと言えど職業であり事業主であるというわけだが、
(彼のところはそうではないよな)
と、思考はまたそこへ立ち戻ってきてしまう。
轟の事務所は、出自こそ元エンデヴァー事務所の東京支部を経ての独立という形を取ったものだが、一見のれん分けのような設立経緯と実態に多少開きがあって、独立元から直接的に継承したものはごくわずかに過ぎなかった。企業で言うスピンアウトに近く、当人からの支援不要の希望も伴い、立ち上げに際しての諸々は、ヒーロー・ショートの志を支持して前事務所を離れることを選んだ少数のサイドキックとスタッフによって行われた。現地採用で人を増やした今も、構成的には少数精鋭の事務所であり、縁故で〝一番〟を与えられるような後援組織はいまだに持たないはずだ。
つまり現状、ある意味においては、東京進出時のチームアップ一番手を担ったインゲニウム事務所およびチームイダテン、そして二代目インゲニウムこと飯田天哉こそが、最も彼の事務所と彼自身に縁の深い組織であり、縁の深い人間である。それはおそらく間違いのない事実だ。
(事実、だとしても)
メールの送信確認メッセージに是を応え、デスクの隅に伏せた封筒を手に取って立ち上がり、コピーコーナーに設置された書類溶解処理用のポストに丸ごと投じた。今さら縁故融通などかなうはずもないが、そんな考えが一瞬でもよぎってしまった浅ましさごと融けてまっさらになってしまえばいいと、最後にひとつと決めて落とした大きなため息を深呼吸に無理やり変えて、それで全て終いとした。
◇
三日後、ベテラン広報の予言の通り、ショートファンクラブの受け付け窓口は見事にパンクして報道沙汰となり、終日世間を騒がせた。念のため所内で待機していたという轟は事務対応に倦んだ顔で帰宅し、ニュース見たよ大変だったそうだな、とあえてすぐに話題に乗せると、俺も驚いた、と素直な感想を述べた。
「あんな感じになるんだな。一応対策みてぇなこともしてたらしいんだが」
「うちのスタッフが『あちらは自分のところのヒーローがどれだけ法外な人気かちゃんと把握できてないんですよ』なんて笑っていたよ」
「そうか……もしよけりゃまた意見交換会っつーのか、顔合わせて色々教えてほしい」
「ああ。いつでも協力するぞ。ウェブサイトやシステム周りの見直しが必要になりそうなら企業紹介もできるし……」
揚々と提案しかけて、浮かべた企業名からの連想が〝その番号〟に触れ、ふっと言葉が途切れる。声を呑み込む動作が見えてしまったのか、轟が不思議げに首を傾げた。
「どうした」
「いや、なんでもない。何かあればぜひ声をかけてくれ」
平静を努めて答える。自分から持ち出した話ではあるが、思いのほか未練が居座っていたようだ。ぼろが出ないうちにと切り上げ、別の話題を探す飯田の顔に、隣からじっと双つ色の視線が注がれる。
「なんだい?」
どうやら轟のほうが既に話を持っているようだ。それもおそらくひとつきりではない。促しの声をかけると、いや、とやや歯切れの悪い言葉を置き、問いが発された。
「お前、どっか具合悪ぃんじゃねぇか?」
「え?」
ぱちぱちと目瞬きして見つめ返した顔は常ながらの端正さだが、個性にちなんで氷の彫刻のごとしと称されることもある相貌に、確かな心配と不安の熱がにじんでいる。そんな憂いを覗かせさせる覚えがなく、至って健康だぞ、と素直に答えた。逆に様子をうかがうが、気遣い以外の思惑はないように見える。
轟も確信があって言ったわけではなかったらしく、押し訊ねてくることなくそうかと口を閉じたものの、その横顔には気がかりの気配が残ったままだ。これは早々に解消せねばと、腕立ててもう一度言葉を促した。
「轟くん、何か話があるなら遠慮する必要などないぞ! たとえ面倒なことでもちゃんと聞くから」
自分も轟もあまり気付きの良い人間ではないので、小さなもつれを放置した結果、知らぬ間にとんでもない絡ませ方をしてしまうことがある。幸いそれで大惨事を起こしたことはまだないが(どちらかと言えば知人友人にこまごまと面倒をかけて頭を下げるに至る例が多い)、解きほぐすなら早いほうがいい、というのが今日までに得た経験則だ。
そうした点については轟も同様に学んでいるはずで、ん、と頷き、ためらいの様子を見せながらも再び口を開いた。
「面倒なことじゃねぇ。どっちかって言や浮かれたことっつーか……お前が具合悪い時にする話じゃねぇなと思って」
「む、そうか。気を遣ってくれてありがとう。だが先ほども言った通り体調は全く問題ないから、ぜひ聞かせてほしい。明日は共に休みで時間もあることだし」
明るい話であるなら、むしろ妙な未練の上書きに有難い、と自分本位な考えも浮かべてしまいつつ、先をねだる。轟はわかったと言ってやにわにソファを立ち上がり、荷物置きにしているドア横のワゴンに早足で向かって、いつも仕事で使っているショルダーバッグの中から何やらを掴み出してのち、また早足に戻ってきた。手にしているのは事務所の備品らしき封筒で、通常の書簡サイズのものだが、封はされていない。
くるりと天地を返してひと振り、軽い音ともに轟の手の上に滑り落ちたのは、便箋やチラシの類ではなく、手に収まるサイズの薄い紙片のようだった。なんだろうと見て取る前に、すっとこちらへ腕が動く。
「これ、良ければもらってくれ」
「え?」
差し出された紺色の長方形の下に反射的に両手を伸べ、手のひらに乗った硬い感触で、それが紙片でもないことに気付いた。汎用規格のプラスチック製のカード。見下ろし、見つめて、はたと、息を呑んだ。
紺地の上に金銀の箔で象られた、炎と氷の意匠。手前には翠碧色と鈍色、瞳と同じ二色のラインが横切って、彼の名とともにカードの証す〝会〟の名と、その輪に入った人間の名を飾っている。
「いくつか試作こさえて、決まったあとに俺の分も作れるけどどうするかって訊かれて、別に要らねぇと思って。それで――」
普段以上に訥々と語る轟の言葉はどこか弁明めいてもいたが、気にかける余裕はなく、ただ耳に流れ入るままに聞いた。震える指でそっとカードの表面をなぞる。見慣れた、とは言いがたい、Tで始まりAで終わる英字の名。横に刻まれた、数字。
「代わりになんとなく思いついて、正式なもんじゃねぇけど、作っちまった。いきなりですまね、ぇ……」
言葉が不自然にすぼみ、かすれて消えかけた語尾が、飯田、と硬い呼び声に変わる。どうかしたかと訊ね返そうとして、声が出ないことに気付いた。かは、とえづくような空咳が漏れたきり、次の息を吸うことができない。水平になりかかった眼鏡のレンズにまだら模様が描かれるのを見て、ああ涙が出ている、と思った。
飯田、とまた呼びかけられて、背を咄嗟の仕草で撫で叩かれる。驚きが個性の制御に動揺を招いたのか、指先に冷気が宿っていたが、熱の昇る身体にはちょうど良かった。わずかな隙で呼吸をし、あえぐように名を呼び返した。
「とどろき、くん……」
「どうした飯田、大丈夫か。……いや、悪ぃ、嫌だったよな。勝手なことして……」
「ちがう」
違うんだ、と、その行き違いだけは即座に絶対に否定せねばと、首を振り立てる。締まる喉から声を絞り出し、どうにか言葉にして発した。
「嬉しいんだ……すごく、うれしくて、……なさけなくて……」
「ん?」
当然の疑問の声が返る。ごめん、とあえぎあえぎに謝し、震える指でどうにか眼鏡を外して涙をぬぐおうとすると、こするなと横から手を止められ眼鏡も取り上げられて、前のテーブルにかたりと物を置く音が聞こえた。ぽんぽんと眦を叩いて涙を吸っていくのは伸ばした服の袖のようだ。ハンカチやタオルが出てこないのが逆に轟らしく、熱持った目と肌にそっと冷気を送るやさしい慰撫とともに、騒ぎ立てる心をなだめてくれた。
どうにか呼吸を落ち着かせ、両手に掴み直したカードを胸の前に持ち上げる。ニュースにもなった今日のひと騒動を経て、来週か再来週には待ち人のもとへ届くのだろう、彼を愛する人の輪のしるし。紛れもなくその一人たるTenya Iidaの印字の下には、浮き出し加工で七桁の数字が刻み込まれている。
百でも、一万でも、そしてナンバー1でもない。横一線にきっちりと並んだ、七つの
0。
「轟くん」
「ん」
「……しょーとくん……」
「おお」
自分で口にした名が涙腺を刺激し、また吹きこぼれてしまった涙をまた横からぬぐわれて、子どものようにぐすぐすと鼻をすすりながら言う。
「これ、ぼくにくれるのかい……?」
「もらってくれるか?」
「うれしい、ほしい、けど」
「さっきの情けねぇってやつか」
先回りの言葉とともに、濡れた頬をそっと撫でられる。自分も轟も決して気付きの良い人間ではないが、互いの憂いや悩みを一番に察せる程度には、共に過ごし心を通わせてきた時間も長くなった。
「ここ十日ぐれぇかな。休みもなかったし、お前、なんか無理してしゃんとしてるように見えてたから、あんま体の調子良くねぇのかなと思ってた」
ひょっとしてこれのことだったのか、と問うでもなく言われ、もはやごまかす余地もなく頷き、
「一番が、欲しかったんだ……」
力の抜けきった声で告解して、今日までの馬鹿な煩悶を隠さず語った。轟は幾度か驚きの反応こそ見せたものの、首を傾げることも、まして呆れの息をつくようなこともなかった。話の最後に「そうか」とひと言やわらかな声でただ相槌して、背に回した腕で縮こめた肩を抱きしめてくれた。
「お前の名前入れて勝手に作っちまってたこと、初めに教えておけばよかったよな。サプライズだとか事務所のやつに言われて、ついその気になっちまった」
ごめんな、と謝罪を受けて、ぶんぶんと首を振る。
「俺が……俺こそ、正直に打ち明けておくべきだったんだ。無駄な見栄を張って、いい大人が恥ずかしいだなんて隠して、体調にまで気を遣わせて、もっと情けないことになってしまった……」
「番号がどうとかそういうの、俺が良くわかってねぇだろうと思って、言えなかったっつーか、言わないでおいてくれたんだろ」
「そんな」
そんなことはない、とは返せなかった。轟はこんな卑俗な執着などに関心を持たないだろう、と思っていたのは確かだからだ。しかし、それは彼の理解や思いやりに対する侮りにほかならなかった。なんの会話も相談もせずに相手の許容の枠を勝手に決めて、勝手に怖じけて、勝手に諦めていたのだ。
「……俺は浅慮な男だ。軽蔑してくれていい……」
「するわけねぇだろ」
こぼれ出た自嘲は即座に否定された。すぐ反省するのはお前のいいとこだけど、たまに余分にへこみ過ぎだと思うぞ、と別口の忠告を唱える声は肩をさする挙措と同じく穏やかで、笑いの響きさえ入り混じっている。
「たぶんキリがねぇから、おあいこってことにしとかねぇか。俺もひとりでいい気になっちまってた。昔お前が『ショートの初めのファン』つってくれたの、すげぇ嬉しかったから」
思わぬ言葉に、え、と声が漏れ落ちた。
「……憶えていてくれたのかい」
「忘れるかよ」
学生の時分、まだ轟への恋心の自覚も、今しがた吐露したようなひねた気持ちもなく、ただ若さにともなって純粋に幾度か口にした、きっと日常の会話の中にまぎれて消えたのだろう他愛ない主張。轟が特別な反応を見せていた記憶はないが、しっかり耳に留めてくれていたらしい。
「どこの誰が一番になるかとか、事務所では話に出てたみてぇだけど、まあ正直気にしなかったと思う。お前にああ言ってもらって満足してたっつーか、それとこれとは別だとか思ってたし。けど、よく考えたら俺、お前に礼とか言ったことねぇなって気付いて、あせった」
「え、いや、それは当たり前と言うか……俺が礼を言うべき立場だったのであって……」
「それこそおあいこだろ。貸し作ったとか思ってなかったし」
挟んだ言葉もすぐに打ち返されて、それでも、と続く。
「それでもお前は、そうやってずっと俺に感謝してくれて、いつも近くで見ててくれて、身体ぼろぼろにしてまで、援けてくれた。人に好かれてぇとか、褒められてぇとか、そういうこと思ってヒーロー目指したわけじゃねぇからとか偉そうに考えたようなこともあったけど、お前が俺を恩人だって、ヒーローだって言ってくれるたびにこのへんが熱くなって、やる気が湧いた。自分を真っ正面から認めてもらったり、応援してもらったりすんのっていいもんだなって、思った」
胸に手を当て、今思い返すとお前への気持ちとごっちゃだったかもしれねぇけど、とファンなら卒倒ものの柔和な微笑を浮かべてみせるので、その第一人者を気取る飯田も当然まばゆさに目を細めかけたが、つっと胸から下りた指にこちらの手を取られ、天哉、と耳元でやわらかに名を呼ばれ、それどころではなくなってしまった。
ナンバー0の会員証ごと握り込まれた左手がそろりと持ち上げられて、薬指の環の上に、笑みの形の唇が触れる。
「ずっと
〝俺〟のこと好きでいてくれて、ありがとな」
「焦凍くん……っ」
謝意の言葉が捧げられた瞬間、一度ネジのゆるんだ涙腺が今度は完全に決壊して、ぶわりと吹きこぼれた涙そのまま、衝動任せに隣へ抱きすがった。おお、と声漏らして受け止めてくれる身体は、母親似の美貌ゆえか女性的で華奢と思い込まれがちなようだが、勢い余った抱擁ひとつなどで容易に揺らがない、たゆまぬ研鑽により身につけた
靭さとたくましさを備えている。十年前のあの日あの夜から飯田の愛してやまない、勇ましくも優しい氷炎のヒーロー。
「ショートくん、好きだ、だいすき」
「ん。俺も」
背を抱きしめ撫でてくれながら、やっぱお前にそう言われんのすげぇいい、と飾りない声音でささやかれて、ますます涙があふれてくる。この分では明日の朝には腫れてとんでもない顔になっているかもしれない、休日で良かった、と冷静に考えられているのは頭の隅のほんの一片で、ほかの大部分は歓喜の嵐に巻かれている。とんだ馬鹿な狂想と狂騒の十日であったことだ。
あたたかな腕の中、かすれ声をどうにか言葉に紡ぐ。
「カード、ありがとう。大切にする」
「おう。なんか正式なやつのほうは更新とかもあるみてぇだけど、そいつでそのままファン続けてくれたら嬉しい」
「僕はこのさき一生、ずっとヒーロー・ショートの大ファンだよ」
一番の、最上の、などとは言わない。認められた特別を人へ言いふらして自慢することもないだろう。いくつ桁を重ねても変わらない、あの始まりの場所から、今に、そして未来につながる彼への気持ちを持ち続けていれば、伝え続けていられれば、それでいい。
騒ぎにひと段落がついても無性に離れがたく、相手から身を引かれるまで、と決めて肩口に頬寄せて甘えていると、引く代わりに胸へ重さをかけられ、想像と逆しまの向きに身体が傾いて、背を危なげなく支えられたまま、気付けばソファの座面に仰向けに寝転がっていた。
「置いとくな」
あれ、と思う間もなく手からカードが抜き取られ、テーブルの先客になっていた眼鏡の横に伏せ置かれる。ぱちくりと目瞬きし、天井、ではなく我が身に覆いかぶさる人を見上げた。
「……ん?」
「悪ぃ、このまま少し触りてぇ」
十日ぶりだから我慢できねぇ、と熱こもる声で言われて、ああそうかそうだった、と内心に頷く。
偶然ではあったが、前回のファンクラブの話からこっち、互いに多忙が続いてゆっくり向き合う時間が取れずにいた。轟が飯田の体調を気遣ってくれていたのもあってか、夜もただ並んで寝ているのみで、それ以上のことはなかった。離れがたいと思うはずだ。今ここでようやく思い至るなど、どれだけ例の数字に心囚われていたのだろう。明日は互いに休日。煩悶は煩悶として、習慣に従い先に風呂を済ませているし、なんの問題もない――と、冷静に考えられているのは頭の隅のほんの一片だ。
「ひえ……」
また嵐の中に放り込まれた頭の大部分の中の言語野は正常に働かず、間の抜けた極小の声が口から漏れ出る。
「天哉?」
「しょーと、くん」
「おう、どうした」
人をソファに押し倒して小首傾げる仕草すら画になる、勇ましく、優しく、うつくしいヒーロー。そんなひとが好きだと言ってくれている。触りたいと言っている。この自分に。
はわ、とこぼれたファンの悲鳴で、風すさぶ頭の中が染め上げられた。
「ショートくん、格好いい……すき……」
「おお……?」
驚きと笑いの混じった顔が浮かぶ。飯田の愛してやまないヒーローは、世間から付されるクールの評の範疇にない、そんな柔みの強い顔すら格好いい。
「なんだ、急に酔っ払っちまったのか?」
「酔ってはいない、いないが、嬉しすぎて、変になってしまった……」
「変になっちまったのか。なんか可愛いぞ」
「ひえ……」
ちょんと鼻の頭にキスを落とされて、冷静でいたはずの頭の一片までが酩酊を感じてくらりと回った。師となったオールマイトに身近な敬慕を寄せる傍ら、永遠の憧れのヒーローとして、崇拝に似た愛をも捧げ続ける緑谷の気持ちが今ならば実に良くわかる。
カードにも使われていた瞳の双つ色が煌めいて、すき、かっこいい、すきだ、と無意識に告白を転がす口を唇でふさがれた。二律の熱を宿す舌がすぐに滑り入ってきて、惚けてぽかりと空いていた咥内を思うさまなぶっていく。
「んっ……ふぁ、ァ、んん……」
誘うように舌先を吸われるだけでひくんと背が揺れる。一時は無駄な憂いに追いやられていたとて、触れ合いに飢えていたのは互いごとだ。しかし親愛と憧憬と思慕と慾動と、いつもはそれなりに整頓している彼への想いが一連の騒動でごちゃ混ぜにされて、身体の反応まで妙なことになってしまっているようだ。
とろりと見仰ぐ異色が揺れて、なんかやべぇ、と小作りの口から呟きが落ちた。
「ファンに手を出すヒーローってやつじゃねぇか、これ」
「そんな、」
いまだ年間幾回か世間を騒がせるお定まりのスキャンダルだが、さすがにこれは「そんなことはない」の部類のはずである。自分たちはプロデビュー前に出会ってから十年の付き合いを重ねた友人で、思慕の告白を交わし合い交際を始めて七年になる恋人で、法律上の認も受けた歴としたパートナーであるからして、ともはや豆粒大となった冷静な頭の一部が語るのをよそに、あとの部位は「そんなことよりもっとさわって」とすっかり馬鹿になって騒いでいる。
「しょぉとくん……」
「名前のせいか?」
首ひねる轟のヒーロー名は本名から取られているが、一応飯田は結婚以来しばしば使うようになった下の名とは呼び分けているつもりだし、轟自身もそれを聞き分けているようだ。だがなにぶん舌が回らないので、今夜はもう致し方ないと棚に上げてほしい。
などと思っていると、
「まあ、すげぇ好みで可愛いやつがいたんだからしょうがないよな」
「んんっ、もう……」
報道沙汰を招く不埒なほうの「致し方ない」の呟きとともに腰を撫ぜられて、説教気分より先におかしみと熱を引き出される。そもそもファンなら慕う相手に説教するものでもないだろうか、と蕩けた頭をようよう働かせて再びどちらともつかない名を呼べば、麗人の容貌の中に天をも焼き焦がしそうな情熱を抱えたヒーローは、十万の人を虜にするうつくしい笑みを浮かべて、また甘やかな口付けと抱擁をくれた。
後日SNSで盛り上がった話題によると、ショートファンクラブの一番会員になったのは、歴戦の猛者たちが阻まれたサーバートラブルを奇跡的にくぐり抜けた、二年前の住宅火災で火の中から救け出されて以来の熱烈なショートファンだという、六歳の少女(と彼女のために代理で申し込みを行った母親)であったらしい。
胸あたためながら飯田は改めて自分の名で申し込みをし、五桁番号の正式な会員証をもらい受けた。轟は「自分もインゲニウムのファンだ」と実は幾度目かになる主張をして同様のことをしたがっていたが、いざ我がことになると照れが勝り、チームの後援会だからと説明をくり返して、今のところは保留となっている。何やらこちらのスタッフと話をしていた気配があるので、当分のあいだ広報案件の確認には一層の慎重さを要しそうだ。
なお、会報同封用に直筆されたショートの手紙の記念すべき第一弾は、氏名は伏せられているが明らかに新婚のパートナーであること丸出しの人間とのそれなりに具体的な惚気話が記されていたため、インゲニウム事務所への校閲依頼段階においてチーム代表権限で全文ボツと相成り、ナンバー0の特製会員証とともに、飯田の私室の机にそっとしまい込まれている。
end.