Run with me, Run with you!


 トラックの最後方に設置されたスターティングブロックに足を乗せ、クラウチングの体勢で合図を待つ。コンマ秒の速度を求められる競技ではないが、気はゆるめず、常の呼吸、常の姿勢、常の集中。鼓動は一定、燃料は充分、機関異常なし、準備完了エンジン・オールグリーン
「位置ニ着イテ、用意」
 スターターロボットの声で腰上げるとともに脚に火を入れ、ドルン、と噴かせた排気音の余韻に重なる号砲一過、地面を蹴り出し、全身のばねを伸展させてギアを上げ、風裂いて駆ける、駆ける、駆ける。通常走者の五倍の距離を目瞬きひとつの間で縮め、抜き去り、先頭でたどり着いたエリアに散らばる紙片をぎりぎりの減速で拾い上げ、八つ折りの紙を片手で振り広げて、中に書かれた大きな文字を目視し、――静止した。
 事故寸前の急ブレーキの様を何やらに喩える実況が鳴り渡り、次いで一斉に名を叫ばれる。はたと我に返り、エンジンを再始動して駆け出した。目指すはグラウンド最南端の中央やや東寄り、頼れる仲間たちの詰める二年A組の待機スペース。委員長、と今年は全会一致で賜った役の名を呼ばわる級友たちの声は、いつも飯田に自信と活力と勇気を与えてくれる。


 戦争被害地域の復興活動と、社会に重く投げかけられた「ヒーロー」にまつわる様々な問題の模索という急務に伴い、雄英高校でも従前の学習カリキュラムと学校行事の内容およびスケジュールが大幅な変更を余儀なくされる中、ぜひ今年も体育祭を、と初めに声を上げたのは、入学間もない一年生たちだった。
 興行存在としてのヒーローの在り方に大きな疑問符が付き、年々エンターテイメント色の強まっていた従来の体育祭の開催にも当然待ったがかけられることとなった。「ヒーロー科生徒の世間へのアピールの場」としての機能は、急場しのぎとして、同様の事態に直面した他校のヒーロー科新入生との合同トライアウトによる代替がなされたものの、一年目での元の行事の復活は果たされなかった。
 しかし、世に名だたる「雄英体育祭」という一大イベントに惹かれ、そこで勇躍するヒーローの卵たちの姿に憧れて、雄英に入学してきた者も少なくはない。それを社会の要請という抗いがたいお題目のため、言わば大人たちが見ぬ振りをして積み上げてきた負債を、夢への一歩を踏み出したばかりの若者が被る形で一切無きものとされたわけである。これはやはりおかしいのではないかと、上級学年の生徒たち、さらに教師陣も問題視し、各組代表者たちとの協議が重ねられた結果、世間一般には非公開、観客は生徒の家族など限られた招待者のみという、あくまで一学校行事としての体育祭が開催されることとなった。
 主催・運営は各学年の経営科を中心とした有志の学生により行われ、学校側は施設の提供など支援者の立場に留まる、文化祭に近い形式での実施が決まり、さらにヒーロー科偏重の色を改めるべく、従来の個人対抗戦ではなく、種目を大幅に変更し、ハンデ制を導入したクラス対抗型のイベントとなった。学校全体での総合順位に加え、学年別、学科別の表彰もあり、それぞれの上位クラスには食堂の無料回数券、新規メニュー追加権など、ささやかな副賞が贈呈される。一般の高校で行われるようないかにも「学生っぽい」行事を、戦後の閉塞感を払い日常を取り戻す足がかりとして皆歓迎し、協力者の数は日々増えていった。
 各競技の出場者は一部種目を除いて事前の申告制とし、純粋な運動系の種目だけでなく、仲間との協力、知識や分析力、その場でのひらめきなどが問われる種目も考案された。ヒーロー科には所属事実のみで獲得ポイントの減点や競技レギュレーション変更などの高いハンディキャップが課せられ、発動系の個性使用はその性質に応じハンデがさらに大きくなるというルールも定められている。誰をどの競技に割り当てどの個性を活用しどこでどうポイントを稼ぐか、事前の戦術・戦略の検討錬磨こそ鍵と察し、各組とも直前まで知恵を絞って勝利への道筋を協議した。
 全校生並列の行事とは言え、当然、先の大戦の功労者を多数擁する二年ヒーロー科への意識は強く、憧憬と挑戦の目を集め、応じて受ける側の士気もいや増す。逆境に打ち勝ってこそヒーローと目標を掲げ、いざ雄英のトラブルメーカー、もといキープレイヤーの面目躍如をと、二年A組の作戦会議も数日にわたって大いに盛り上がった。
 かくして、十一月の文化祭に先駆ける中秋の候、戦いの火蓋は切って落とされた。


 大会は出だしから荒れに荒れた。経営科の精鋭たちが目の下に隈を作りながら嬉々として練り上げたハンデ設定は実に巧妙かつ絶妙で、さすがにヒーロー科優位の様相は見せながらもどこか一組が抜きんでるという状況にはならず、気を抜けば確実に足元を掬われるという、ひりつく攻防が繰り広げられた。
 プログラムのちょうど折り返し地点を過ぎた段階で、二年A組の獲得ポイントは総合二位の位置にあった。戦闘となれば他を寄せ付けない力を発揮する個性とて、運動競技においては重いハンデを覆すほどに活かせない場面も多い。他のクラスからのマークの厳しさも重なって、搦め手に強い個性の所有者が多数所属し、さらにそれらを一競技内で複数使い分けて利用できる、ファントムシーフこと物間をも擁する二年B組に、わずかに水をあけられる流れが続いていたのだ。
「飯田くん!」
「委員長、突然止まってんなよ! 難しいお題引いちまったか?」
「う、うむ、それが……」
 そんな状況で始まった競技が「借り競争」である。昨年までの体育祭では合間のレクリエーションとして行われていた競技のルールを整備し、指定されたお題に沿う、物品ではなく人を連れ、ゴール前に共にトラック一周を走破してゴールした順位を競うという形式となった。一般的な運動会でもおなじみだが、そこは雄英、指定されるお題はどれも一筋縄ではいかないものばかり。ゴール後の審査で撥ねられてしまう例もあり、クラス内での相談可、さらに獲得ポイント減を条件とする題の途中交換が可とされていてなお、半分以上のチームが制限時間内にゴールすることさえ叶わないという有様であった。
 三レース中、一レース目は障子が出場し、「偉人」という題を引いた。「天才」「史書掲載人物」「身長百センチ以下の成人男性」など対象が他クラスと被りに被った状況下、得意の探査能力をフルに活用し、観客席に紛れ潜んでいた根津校長を見事一番に発見、確保したものの、簡単なお題に恵まれたうえ発目考案のアイテムでフル装備をしたサポート科二年H組に一歩及ばず、二位でのゴールとなった(なおH組の選手はゴール後爆発しアフロヘアーになった)。続く第二レースは同じく探知に長ける耳郎が出場したが、またしても指定の被ったB組の取蔭とのターゲット奪取合戦に競り負け、仕方なく減点を呑んで題の交換を行い、五位でポイントを獲得した。
 そして第三レースの出場選手が飯田である。A組では前二名に次ぐ探査型だが他の状況での応用性の高い口田が別の競技に回ったため、ターゲット確保と走破の速度のみを考慮した人選となったものだ。
 飯田は走力強化型の個性所有者として、競争系の種目の全てで距離延長およびスタート遅延のハンデが課せられていたが、午前に実施された百メートル走では五秒遅れのスタートから競合の全員を一瞬でごぼう抜きにし、千五百メートル走では雄英敷地外から撮影ドローンを置き去りにしつつグラウンドまで戻って一位を獲得するなど、二代目ターボヒーローの名に恥じぬ活躍で既に幾度か場を沸かせている。今や学内に並ぶ者のない走力は言うに及ばず、素の身体能力がバランス良く高いため、個性の利用なしでも複数種目で上位を狙える要員として、芦戸と並び今日のA組の重要なポイントゲッターに見込まれていた。
 頼れる体育会系委員長にこの状況で不足しているものがあるとすれば、独創性と柔軟性。第一、第二レースではトンチめいた出題もされていただけに、引いたお題が即答できるものでなければとりあえず待機スペースへ相談に戻れと言い含めていたのは、大戦の後遺症によりいまだ大幅な運動制限を課されている爆豪だった。せっかくの勝負事に全力を出せない鬱積の様子を見た飯田が、当日自分は一選手として力を尽くすことに集中するから、代わりに皆を勝利のためにまとめ導く役割を任されてほしい、と頼み、目標と思惑の一致により実現した体制である。
 前半は隙がありゃ狙うがたぶん遅れる、後半に巻き返しに行く、と予告していた爆豪の組み立てた、貪欲に勝ちを狙う人員配置と戦術により、ここまでも実は想定通り、想定以上の成果が上がっていた。ひょっとすると昨年の体育祭で自らも陥穽に落ち込みかけた、B組の作戦への意趣返しの策でもあったのかもしれない。
「――これを引いたんだが」
 縄で仕切られた待機スペースに駆け戻り、前方へ詰めかけた仲間たちの前で、何かを探すようにきょろきょろと視線をさまよわせながら、飯田が手にした紙を開き示す。ああ、と様々な感慨を含む声が一斉に上がった。
「そんなお題もあんのか。主観が混じるだろこれ」
「究極的には俺らの中の誰でも良くね?」
「でもゴールしたあとの審査、結構厳しいみたいだったよ」
「誰もが異論なく認める存在でなければなりませんわね」
「うん、下手なごまかしして失格にでもなったらもったいないよな」
「そうね飯田ちゃん。もう決まっているんでしょう?」
「あっ……! どうしよ飯田くん、今おらへんよ! ついさっき次の種目の準備と事務局のお手伝いに呼ばれて出て行ってもーた!」
「爆豪!」
 麗日と切島のあせりの声を受け、わーっとる、と競技と運営支援のタイムテーブルをタブレットで確認していた爆豪が顔を上げ、さっと前を開けた仲間たちのあいだから飯田へ指示を送った。
「今の時間は体育倉庫裏と実況席の屋上だ。とっととどっちか捕まえて最高点稼いでこいや」
「そうか! ありがとう、了解した!」
 しゃきっと腕上げて応え、アイドリング状態だったエンジンを再始動させるや、マフラー音とつむじ風を場に残し、瞬く間に後ろ姿が点になる。なんだかどんどん速くなるねぇ、とぽつり感想が漏れた頃には、既にその脚はグラウンドを出て体育倉庫の角を回り、裏手で備品準備をしている生徒たちの輪に飛び込んでいた。
「い、飯田くんっ?」
 どうしたの、と障害物リレー用のネットを抱えた緑谷が駆け寄ってくる。飯田はさっと背を向けて片膝立ちの姿勢になり、首を後ろへねじって声を張り上げた。
「突然すまない緑谷くん! 今は何も訊かずに俺に負ぶわれてくれないか!」
「……わかった!」
 一年半の友人付き合いの積み重ね、ともに救け、救けられて築いた信頼の強さは伊達ではない。余計な問いは挟まず、緑谷は手にしたネットを別の生徒へ頭下げて預け、広い肩に両手を置いた。すかさず足を抱えて立ち上がった飯田がひと声の合図とともに地を蹴り駆け出す。人ひとりの体重をものともせず、緑谷を背負ったまま行きとほとんど変わらない速度でグラウンドに戻り、待機スペース前を思わぬ方向へ通過した飯田に、クラスメイトたちから驚きの声が飛んだ。
「飯田! トラック一周だよっ?」
「そっちは逆だぞ!」
「わかっている! すまない皆! 俺は自分の気持ちに嘘は付けん!」
 答えにならない応えを呼びかけに返し、飯田は競技場中央の実況席の入ったスタンドの壁へと駆けていく。速度は依然ゆるまず、あわや激突、という位置まで来て、
「跳ぶぞ、緑谷くん!」
「えっ、あ、うん!」
 端的な合図とともに、踏み出した脚を大きく曲げ、推進方向を切り替えて、さながらロケットのごとく空へ向かって跳躍した。途中の壁と柱を幾度か蹴って、上へ上へと駆け登る。最後にもう一度、駄目押しじみたブースト音が響き、場の視線を釘付けにする二名の身体は、スタンドの最上部を数メートル超えた位置まで躍り上がった。
 屋上でドローン中継器の急冷作業を行っていた生徒たちが一斉に空を見上げ、驚愕の表情を浮かべる。その中にひときわ目立つ紅白の頭へ向け、叫びが降った。
「作業中に申し訳ない! 俺と来てくれ、轟くん!」
 唐突も唐突な登場と要請に、しかしいくつもの急場をくぐり抜けてきた次代のヒーローは混乱を一瞬でぬぐい、頷きを返して自ら跳んだ。炎による飛翔で距離を詰め、差し伸べられた腕を掴み、ぐいと引き上げられるまま身を寄せて支持搬送のような姿勢になる。一瞬後、上への推力が消失し、重力に引き掴まれた三人の身体が急降下を始めた。
「轟くん、着地だ!」
「任せろ」
 短く応えて振り出された右手から逆巻く冷気がほとばしり、スタンドの壁伝いにたちまち凍り付いて、地上まで続く巨大な氷の滑り台を形成する。一瞬エンジンを噴かせて体勢をととのえた飯田の脚が氷壁を捕らえ、じゃっと音立てて靴裏を接面し、グラウンドへの激突は免れた。が。
「おいこれ止まれるか飯田」
「うむ、俺のキックシューズには氷上での防滑機能はないから止まらんな!」
「意外に冷静!」
「そのまま走り抜けるからしっかり掴まっていてくれ!」
 橇競技のごとく氷の台を滑走し、その終端、地面との境目に生じる強烈な摩擦差でつんのめる、ような弱い身体でターボヒーローは名乗れない。強靭なばねと体幹で転倒をこらえ、さすがに前へ数歩たたらを踏みつつも、すぐに持ち直して宣言通りに疾走の体勢に入る。あとのトラック一周などものの距離ではなく、もはや自分たちがどんな姿勢で運ばれているのかわからなくなっている二名が「良く走れんなこれで」「凄いや飯田くん!」などとしきりに感心するのもわずかの間、戦車じみたひと塊りとなって爆走し、先にトラックに入っていた数名の対抗走者たちも全て追い抜いて、一位でゴールテープを切ったのであった。
 午前中にもその脚力で場を賑わせた人間が、今度は空から滑り落ちてきて、おまけに「借り者」として連れて(運んで)きたのが、かの大戦で全国的有名人となったデクこと緑谷出久にショートこと轟焦凍と来ているのだから、競技場内は一時騒然となった。ざわめきの止まぬ中、制限時間を知らせるブザーが鳴り、マイクを持った体育祭運営事務局の係が、着順に並んだゴール者たちのもとへ向かう。
「お疲れ様でした。大変なレースでしたね! それでは順に『借り者』の審査に入ります。一着でゴールしたのは、二年A組ヒーロー科の飯田選手です。なんとお二人、しかも雄英学内でも大人気の方々を連れてきてくれました。お題はなんでしたか?」
 もし「有名人」や「英雄」なら文句なくクリアでしょう! と煽りを挟む司会に頷き、飯田は体操着のポケットにしまい入れていたお題の紙を取り出した。横で緑谷と轟がきょとんとした顔を見せている。
「何かと思ったら借りもん競争か」
「そうだった……え、僕らで大丈夫?」
「いや、うむ」
 カメラが飯田の手元に向けられ、数分前までの疾駆の鮮烈さとは裏腹の、妙なためらいを感じさせる手つきで開かれた紙片の中の文字を、スクリーンに映し出す。そこにあったのは「有名人」でも「英雄」でもなく。
「……『親友』、ですか?」
 またしても難度の高い、引いた者によっては心に傷を負わされかねない題の登場、そしてそれを持ってきた人間と借りられてきた人間の取り合わせの奇妙さを受けて、また場内にどよめきが起こる。
 確かに三人は同じクラスの所属で、級友の間柄であることはまず間違いない。さすがに緑谷や轟との差は大きいが、「あのA組」のクラス委員長である飯田も学内で多少は存在を知られた生徒だ。しかし「親友」などという大それた関係となると――と、疑念を始めとする様々な感想の声のさざ波を裂いて、
「――ことさらに公言するようなことではないとは思いますが!」
 不意の大音声がマイクを通して鳴り渡り、きん、と鼓膜を貫くようなハウリング音が響いた。もう少し小さめに、と司会が耳押さえてささやき、失礼しました、と直角に身を折って謝罪した飯田は、やや控えめの声量で言葉を続けた。
「二人とは日頃から友人として親しくさせてもらっています。共に切磋琢磨するライバルで、互いに遠慮なく叱り合い励まし合える素晴らしい仲間で、かつて不甲斐ないところを救けてくれた、何をしても返し尽くせないほどの恩人で」
 一度声を切り、ほうけた顔で傍らに立つ二人へ向き直って、言う。
「かけがえのない親友たちだと、……僕は思っているんだ。緑谷くん、轟くん」
 最前までのざわつきが一転、場外れなほど真剣な声音につられるように、場内がしんと静まり返った。司会も声を失ってすぐには反応を挟めず、カメラマンと二人、視線とレンズだけを横へ向けていく。
「飯田」
「飯田くん……!」
 ド直球の告白を受けた二人が同時に名を呼び返し、友人の前へそれぞれ一歩進み出た。感激屋の緑谷の目にはもう涙が溜まっている。しゅっと両手を前へ振り出し、飯田が続けて想いを述べる。
「このような場で急なことで申し訳ない! だがこの言葉を見た瞬間に、君たち二人の顔が浮かんだんだ。どちらかではなく、どうしても二人ともに一緒に走ってほしくて。もし俺が使って不快でなければ、そう思っていても……そう呼ばせてもらっても、いいだろうか……?」
「もっ、もちろんだよ! 僕だって飯田くんには何度も助けてもらってるし、入学してすぐの頃からずっと仲良くしてもらってて、改めて言うのはちょっと照れるけど、僕なんかにはもったいないぐらいに格好いい最高の友だちだって思ってるよ……!」
「俺もだ。お前と緑谷にはいつもすげぇ世話になってるし、たぶん生まれて今までで一番、その……仲良くなったやつらってのじゃねぇかなって、思う。正直親友とかはまだ良くわからねぇけど、全然嫌じゃねぇし、お前がそう思ってくれてるっつーなら、嬉しい」
「緑谷くん、轟くん……!」
 二者二様の、しかしいずれも「是」の答えを返した友人たちに感動の声を上げ、飯田はがばりと両腕で二人を胸に抱え込んだ。
「君たちは俺の一生の親友だ!」
 離れたマイクにさえ再びハウリングを生じさせかけた、声も中身も大々たる宣言に、ひゅう、と高らかな口笛を贈ったのは、二年A組の待機スペースの仲間たちだった。誘われるように他の組の生徒、そして観客席からもぱらぱらと拍手が始まり、初めはまばらに、やがて全体を巻き込む喝采に変わった。

「えー、では二着の方の審査を……」
 グラウンドの一角にすっかり自分たちの世界を作ってしまった一位チームをさらりと置いて審査、そして大会は粛々と進行し、
「おい誰か行ってあの平和ボケトリオどもとっとと連れ戻してこい。次の騎馬戦のフォーメーション初めの計画と変えっから、抱き合って泣いてる余裕があんなら前倒しで頭に叩っ込む」
「鬼教官や……」
「無慈悲」
「あいつらが遷音速出しゃ面倒な作戦要らねェで終わんだわ」
「死人出るよ……」
 頂点を目指す臨時指揮官のスパルタ戦術のもと、後半の競技で高得点を重ねた二年A組は、B組との凄まじい鍔迫り合いの末に見事総合優勝を獲得し、かくて第一回・新生雄英体育祭は成功裏に幕を閉じた。
 なお大会半ばで全校生徒にライブ中継された感動の友情劇は、向こうひと月の話の種になり続け、翌年から少しずつ形を変えて続いた体育祭の名物として、借り者競争の題に「親友」の言葉を刻んでいくこととなったという話である。


おしまい。

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